労災で脊髄損傷を負った場合の後遺障害等級と慰謝料
最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
労働災害で脊髄損傷を負った場合、第1級から第12級のいずれかに認定され、療養給付・休業給付の他、第7級以上であれば障害年金の給付があります。
労災について会社が責任を負う場合は、等級に応じて290万円から2,800万円の慰謝料請求(損害賠償請求)、逸失利益の請求も可能です。
上記補償を取りこぼさないようにするには、労災事故の大きさに関わらず、脊髄損傷の症状と補償内容、そして必要な対応を理解しておきましょう。
本記事で解説する下記の内容が、いざとなった時の被災労働者と家族の生活を守るはずです。
・脊髄損傷の症状及び合併症
・労災による脊髄損傷の取扱い(保険給付や損害賠償請求の考え方)
・脊髄損傷の後遺障害等級と補償金額
・等級認定の流れ、適切な補償のためのポイント
・労災による脊髄損傷の取扱い(保険給付や損害賠償請求の考え方)
・脊髄損傷の後遺障害等級と補償金額
・等級認定の流れ、適切な補償のためのポイント
目次
脊髄損傷とは│原因となる労働災害と症状・合併症
脊髄損傷とは、脊髄を損傷することで運動や感覚が麻痺し、呼吸器・消化器等の内臓の機能にも影響が出ることもある状態です。医学的症状は完全型と不完全型に分かれ、完全型は運動・感覚共に全く機能しなくなり、不完全型は若干の機能が残ります。
いずれにしても、脊髄損傷は日常生活に強い影響のある重篤な障害です。調査によれば、患者の職場復帰率は十数パーセントとされています※。
※参考:「労働安全衛生研究」Vol.12(2019年)No.1 , pp.41‒50
脊髄損傷を引き起こす労災事故の種類と例
労災で脊髄損傷を引き起こす事故の種類は、墜落・転落事故が最多です。次点で転倒事故、その次にはさまれ・巻き込まれ事故が多く確認されています。また、事故状況が軽いからと言って、脊髄損傷やその重症化には至らないとは限りません。
実際、せき髄災害(=脊髄損傷を負った労災事故の通称)の6割近くは、3メートル未満の低位置からの墜落・転落とされています。
▼墜落・転落事故の例
・トラックの荷積みのため梯子を上っていたところ、天井の梁にぶつかってしまい、そのまま地面に墜落。頸部の脊髄損傷を負う
・足場解体作業中に墜落。地上に落ちることはなかったものの、安全帯のロープ設置位置が低く、墜落距離が大きくなり、その過重で腰部の脊髄損傷を負った
・トラックの荷積みのため梯子を上っていたところ、天井の梁にぶつかってしまい、そのまま地面に墜落。頸部の脊髄損傷を負う
・足場解体作業中に墜落。地上に落ちることはなかったものの、安全帯のロープ設置位置が低く、墜落距離が大きくなり、その過重で腰部の脊髄損傷を負った
▼転倒事故の例
・工場2階から1階へ荷物を抱えて降りようとしたところ、前が良く見えず、踏み板を踏み外して転倒。胸椎を強く打ち、脊髄損傷を負った
・作業床に機械油がこぼれたままであると気付かず、誤ってその上を歩いて転倒。腰を強打し、脊髄損傷を負った
※参考1:「労働安全衛生研究」Vol.12(2019年)No.1 , pp.41‒50
※参考2:労働災害事例シート|労働新聞社 (rodo.co.jp)
・工場2階から1階へ荷物を抱えて降りようとしたところ、前が良く見えず、踏み板を踏み外して転倒。胸椎を強く打ち、脊髄損傷を負った
・作業床に機械油がこぼれたままであると気付かず、誤ってその上を歩いて転倒。腰を強打し、脊髄損傷を負った
※参考1:「労働安全衛生研究」Vol.12(2019年)No.1 , pp.41‒50
※参考2:労働災害事例シート|労働新聞社 (rodo.co.jp)
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症状と合併症(併発疾病)
脊髄損傷による症状は、運動・感覚・排泄機能・呼吸・その他のものに分類されます。
また、神経の損傷は、上記以外のリスク(併発疾病)にも繋がります。
▼脊髄損傷による症状
・運動障害……損傷した神経の司る場所が動かせなくなる
・感覚障害……しびれ、痛み、過敏、感覚が消失したり鈍くなったりする
・排尿・排便障害……自力での排泄が難しくなる(膀胱直腸傷害とも)
・呼吸障害……自発呼吸が難しくなったり、全く出来なくなったりする
・自律神経障害……血圧低下や上昇、心拍数の異変、体温調節の障害など
・痙性(けいせい)麻痺……筋緊張が異常に高まり、委縮して痩せる
・運動障害……損傷した神経の司る場所が動かせなくなる
・感覚障害……しびれ、痛み、過敏、感覚が消失したり鈍くなったりする
・排尿・排便障害……自力での排泄が難しくなる(膀胱直腸傷害とも)
・呼吸障害……自発呼吸が難しくなったり、全く出来なくなったりする
・自律神経障害……血圧低下や上昇、心拍数の異変、体温調節の障害など
・痙性(けいせい)麻痺……筋緊張が異常に高まり、委縮して痩せる
▼合併症の種類
・低血圧、深部静脈血栓症
・排尿障害による尿路感染症
・消化器の機能低下による腸閉塞
・褥瘡(じょくそう/感覚麻痺や、自力での体位変換不能が原因)
・低血圧、深部静脈血栓症
・排尿障害による尿路感染症
・消化器の機能低下による腸閉塞
・褥瘡(じょくそう/感覚麻痺や、自力での体位変換不能が原因)
労災による脊髄損傷の取扱い
労働災害で脊髄損傷を負った場合、労災保険給付と損害賠償請求の両面で補償を求められます。
脊髄損傷に至る労災と、その後に現れる症状や合併症の制度上の取扱いは、以下で説明する通りです。
労災保険給付の対象になる
職場や通勤中に起きた脊髄損傷に至る事故は、労働基準監督署に申請することで、労災保険給付の対象となります。まずは治療するためかかる費用の全額が給付対象となるため、事故発生後は迅速な申請を心がけましょう。
治療後も残る症状や合併症については、改めて申請した時の後遺障害等級認定によって、障害給付・介護給付等の補償が得られます。
脊髄損傷と労災保険給付の内容
脊髄損傷による労災保険給付の内容は、下の表にある6種類に分類されます。うち補償の大部分を占めるのは、基本的に障害(補償)給付の部分です。
会社に責任があれば損害賠償請求も可能
労災事故発生について会社の責任を問うべきケースでは、具体的な落ち度の主張・立証により、損害賠償請求が認められます。請求で支払われるのは、労災保険給付ではカバーできない慰謝料(精神的苦痛に対する補償)が中心です。
脊髄損傷は大なり小なり被災労働者の生活を一変させてしまうものであり、そのぶん慰謝料の金額も大きくなります(詳細は後述)。
事故検証や普段の安全体制は入念にチェックし、必要なら毅然と会社に請求すべきです。
労災による脊髄損傷の障害等級と補償金額
労働災害で負った脊髄損傷は、症状及び範囲に基づき、障害等級1級から14級のうちのいずれかに認定されます。
認定区分は障害等級表に沿い、各等級に労災保険給付の額と、損害賠償請求で得られる慰謝料基準(弁護士が対応する場合)の定めがあります。
障害等級表の区分
脊髄損傷が該当する障害等級表の区分は、以下の表に在る通りです。最も重いのは1級~3級とされ、この後に解説する保険給付の内容もより手厚くなります。ç
脊髄損傷について後遺障害等級認定を得た時は、労災保険の障害に対する給付につき、下記の表のように金額基準が定められています。会社に請求できる可能性のある慰謝料の基準(弁護士が対応する場合)と合わせて確認すると、補償額の差や大きさが分かります。
※支給要件:療養開始後1年6か月を経過した日またはその日以降、その負傷または疾病が治っておらず、傷病等級表の第1級~第3級に該当する場合
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労災による脊髄損傷の等級認定基準
脊髄損傷の後遺障害等級は、麻痺の範囲及びその程度についての判定結果を基準とします。
判断の例として、対麻痺(両下肢の麻痺)は、単麻痺(片側の手または足の麻痺)より重いとされる点が挙げられるでしょう。
なお、認定される等級には、胸腹部臓器の障害・脊柱の障害も含まれるのが原則です。例外的に、次のような判断がされることもあります。
・胸腹部臓器の障害やせき柱障害の等級が麻痺よりも重い場合は、それらの障害の総合評価により等級を認定する
・脊髄損傷による損害が第3級以上なら、介護の要否及び程度を踏まえて認定する
いずれにしても、後遺障害等級認定は補償金額を大きく左右します。申請にあたっては、下記でざっと紹介する基準を踏まえ、適切な等級が得られるよう準備しなくてはなりません。
1級の3
第1級の3は「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・高度の四肢麻痺が認められるもの
・高度の対麻痺が認められるもの
・中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
・高度の対麻痺が認められるもの
・中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
2級2の2
第2級2の2は「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・中等度の四肢麻痺が認められるもの
・軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
3級の3
第3級の3は「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができないもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・軽度の四肢麻痺が認められるもの
・中等度の対麻痺が認められるもの
・中等度の対麻痺が認められるもの
5級の1の2
第5級の1の2は「せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・軽度の対麻痺が認められるもの
・一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
・一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
7級の3
第7級の3は「せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・一下肢の中等度の単麻庫が認められるもの
9級の7の2
第9級の7の2は「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・一下肢の程度の単麻痺が認められるもの
12級の12
第12級の12は「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」とされます。具体的には、次のような場合が当てはまります。
・運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
・運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
・運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
脊髄損傷の労災申請・等級認定の流れ
墜落や転落、転倒、はさまれ・巻き込まれ事故等、脊髄損傷に至る可能性のある労災事故は初動対応から迅速かつ的確に実施しましょう。
労災認定及び等級認定で構成される、労災保険給付を十分に受け取るための手続きの流れは、次のようになります。
まずは迅速に労災保険の適用を受ける
労災発生の当初に必要なのは、療養給付・休業給付のための労災申請です。通常は事故証明と合わせて会社が請求(労災申請)を行いますが、対応してくれない時は、被災労働者側で行っても構いません。
症状固定まで治療・検査を継続する
障害給付等のための等級認定を申請できるのは、治療してもこれ以上の改善は見込めないとされる「症状固定」を迎えた時です。それまでは継続的に十分な治療・検査を受ける必要があり、回復に1年6か月以上要してなお継続する必要があるのなら、休業給付から傷病給付(年金)に切り替える手続きも検討しなくてはなりません。
後遺障害等級認定を申請する
後遺障害等級認定の申請では、所定の労災保険給付関係請求書の提出が必要です。担当医には、添付する診断書の他に、「神経系統の機能及び精神の障害に関する障害等級認定基準」に書式がある意見書も作成してもらいます。
認定結果の通知
管轄の労災基準監督署で等級申請すると、平均して1か月~3か月程度で脊髄損傷の等級認定(正確には保険給付の有無)に関する通知が届きます。この時、軽微な損傷だと、職場復帰していて傷病年金が途切れ、定期収入がなくなっている可能性があります。
また、等級認定の結果に納得できない場合には、新たに医学的資料を用意して審査請求(不服申立て)による再審査を依頼する必要があります。
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労災による脊髄損傷の補償を適切に受けるには
労災による脊髄損傷では、適切な補償を得るためにいくつか留意したいポイントがあります。
最も重要なポイントは、下記の4つに絞れます。
正確な損害額計算の必要性
特に「会社に労災発生の責任がある」と疑われるケースでは、脊髄損傷による損害の額を正確に計算する必要があります。前提として、労災保険給付はあくまでも損害につきより十分と思われる額を補償する制度であり、慰謝料全額を含め不足分(=会社に請求すべき金額)がないとは言い切れないのです。
計算を間違えると、請求しても十分な額が受け取れません。
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画像所見の有無、所見が得られる時期
後遺障害等級の申請では、脊髄損傷及びその程度が見て分かる画像所見(CT検査やMRI検査の結果)を添付します。この時注意したいのは、特に軽微な損傷の場合、急性期より後だと損傷箇所に輝度変化が見られない等と、十分な所見が得られないケースがある点です。
最終的には軽い痺れや運動障害を残す程度でも、事故後3か月以内の急性期に撮影する等、しっかりと随時検査を実施しなくてはなりません。
会社の安全配慮義務違反や使用者責任の主張・立証
脊髄損傷に至る労災事故が「会社や作業監督者の安全対策上の問題」である場合は、法的責任を主張・立証して損害賠償請求しなければなりません。指摘すべき責任の種類として、民法で定める一般不法行為責任(第709条)の他、次のようなものが挙げられます。
労災による脊髄損傷について弁護士に相談するメリット
労災による脊髄損傷は、その可能性のある事故の一報を受けた段階で、すぐに弁護士に相談するのがベストです。理由として、事故後の治療・検査の流れが後遺障害等級認定に関わる点や、情報格差により損害賠償請求が難航しがちである点が指摘できます。
療養中の対応を適切に判断できる
労災発生後の等級認定では、業務災害や負った傷病との繋がり(因果関係)を証明できるよう注意しなくてはなりません。証明は医師の診断書や意見書を通じて行うため、その内容に繋がるよう治療・検査を適切に受ける必要があります。
早期に弁護士が治療のサポート及びフォローにあたれば、被災労働者やその家族が落ち着かない状態にあっても問題ありません。
適切な受診方針等のアドバイスを通じて、等級認定に必要な証明を揃えられます。
保険給付その他の補償を十分に得られる
脊髄損傷を負った場合は、労災保険給付や損害賠償請求だけでなく、車椅子の費用等の役場での助成・支援も必要です。保険給付だけでも非常に複雑な仕組みであるため、多くの場合は利用する制度や必要書類を判断するだけでも一苦労でしょう。
労働災害に強い弁護士は、必要な補償を十分に得るために何を利用すべきか、ケース別に的確な判断を下せます。
精神的・経済的サポートを求める被災労働者と家族にとって、心強い味方になるでしょう。
示談交渉・訴訟対応が出来る
脊髄損傷のような重篤な結果になる労災事故では、会社に対する損害賠償請求が最も難航します。被災労働者の安全確認の不足を指摘して過失相殺を狙う、合併症に至る原因として既往症を指摘する等、会社側の問題のある対応は十分想定できます。
示談交渉や訴訟等、損害賠償請求に必要な対応は、いずれも弁護士の得意分野です。法律トラブル解決のための基礎的な交渉力と、労働災害に関する高度な知識・経験を駆使し、満足のできる対応を実施してもらえます。
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おわりに│脊髄損傷に至る重大な労災事故の基本
脊髄損傷を負うと、感覚及び運動機能が麻痺し、排泄その他の臓器や体温調節機能にも影響が出る場合があります。労災保険給付では3級以上の重い障害等級に認定される可能性があり、会社に責任がある場合の慰謝料の相場も多額に及びます。
被災労働者とその家族の生活を守るには、初動対応から適切な受診方針と手続きを心がけ、会社に対する責任追及もしっかりと行わなくてはなりません。
なるべくなら一報を受けた段階で労働災害に強い弁護士に相談し、早期に手続きや会社との協議で支援してもらいましょう。
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