工事現場の足場の崩壊・倒壊事故の会社への損害賠償請求
最終更新日 2025年 03月12日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
この記事を読むとわかること
工事現場で起こりやすい事故は、「墜落や転落による事故」「機械による事故」「崩壊・倒壊による事故」の3種類です。
とくに工事現場の足場はしっかりと組み立てていても、何らかの原因で崩壊や倒壊をすることがあります。
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が起こった場合、作業員は会社に損害賠償請求できる可能性がありますが、損害賠償請求はどのように行えばいいのでしょうか?
ここでは、工事現場の足場の崩壊・倒壊事故による会社への損害賠償請求について解説します。
目次
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が
起こった場合に
会社が負う責任に
ついて
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が起これば、作業員が怪我や障害を負うことや、命を落としてしまうようなことがあります。
こうした事故が起こった場合、被害者やその遺族は会社に何らかの責任を取って欲しいと考えるものです。
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が起こった場合に会社が負う可能性のある責任は、以下の通りになります。
民事責任
民事責任とは、加害者が不法行為によって被害者に与えた損害を賠償しなければならないという民法上の責任です。民法709条には、故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定されています。
つまり、民事責任は損害賠償を指します。
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故の被害者は、事故によって法的な権利を侵害された可能性があり、そうした場合は損害賠償を請求することが可能です。
どのようなケースで損害賠償を誰に請求できるのかは、後ほど詳しく解説します。
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刑事責任
刑事責任とは、犯罪行為に対して法的に与えられる制裁です。具体的な刑事責任は、逮捕や起訴、懲役刑、罰金刑などを指します。
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が労働安全衛生法違反であると判断されれば、会社や責任者が書類送検等されることがあります。また、責任者に業務上の過失がある場合は、業務上過失致死傷罪に問われることもあります。
刑事罰が罰金刑になった場合、この罰金は国に納められるため、損害賠償金のように被害者や被害者家族の元へ入ってくることはありません。
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故で
会社へ
損害賠償が請求できる理由と
具体例
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が起っても、必ずしも会社へ損害賠償が請求できるとは限りません。
会社へ損害賠償が請求できる理由と、損害賠償が請求できる具体例について解説します。
安全配慮義務違反があった場合
会社には、従業員の健康や安全に配慮するための義務として「安全配慮義務」があると労働契約法や労働安全衛生法で定められています。従業員が安心して快適に職場で働けるように労働環境を整える義務が会社にはあるという法律の内容であり、災害などの危険から従業員を保護する義務もあると規定されています。
工事現場は会社によって定められた労働現場であり、会社は従業員が働けるよう安全に配慮しなければなりません。
安全配慮義務違反があった場合の罰則は定められていないものの、民事上の債務不履行や不法行為責任として損害賠償を請求することが可能です。
従業員の安全に配慮することは義務として法律で定められているため、会社が安全配慮義務を怠っていた場合は債務不履行といえます。
また、事故が起こりやすいと把握していながらも放置していた場合などは不法行為に該当し、安全配慮義務に違反すること自体が不法行為責任と考えられれます。
安全配慮義務違反があったとして損害賠償を請求できる具体例は、以下の通りです。
- ・工事現場の足場の組み立てが不十分であることを会社側が把握していながら作業をさせて事故が起こった
- ・安全点検が不足していたため、足場が崩壊した
- ・強風になることが予想されていたにも関わらず、足場のネットを外さなかったので倒壊が起こった
- ・天候が悪化することが予想されていたものの会社が作業を早く進めるように催促していた
- ・一人で作業するにはまだ早い新人従業員に一人で足場作業をさせて倒壊事故が起こった
使用者責任が認められる場合
従業員が第三者へ損害を与えた場合、損害を与えた従業員だけではなく、雇用主である会社も損害賠償責任を負わなければならないことを「使用者責任」と呼びます。会社に使用者責任があると認められるケースであれば、会社に損害賠償請求が可能です。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- ・同僚が足場に解体作業の重機をぶつけて倒壊事故が起こった
- ・同僚が足場の組み立てでミスをしていたことが原因で足場が崩壊した
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故で
会社への損害賠償請求が認められない
ケース
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故で死傷が起これば、被害者の方やご家族は会社に損害賠償を請求したいと考えるものです。
しかし、場合によっては会社への損害賠償が認められないケースもあります。 損害賠償が認められない可能性があるケースは、以下の通りです。
- ・足場での作業中にふざけており、足場の一部が倒壊して事故が起こった
- ・面白半分で足場を揺らし、崩壊事故が起こった
- ・天候が悪くなるから作業を中止するように会社から言われたものの、自己判断で作業を続けて事故が起こった
上記のように、足場の崩壊や倒壊事故の原因が自分にある場合は、損害賠償請求が認められない可能性が高いです。仮に、損害賠償請求が認められたとしても、被災者側の過失が大きいため、過失相殺により、賠償金が減額される可能性があります。
損害賠償請求が認められるかどうかはケースバイケースになるため、弁護士に相談してみることを推奨します。
工事現場における事故の
損害賠償請求先について
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故の損害賠償請求を行う場合、損害賠償の請求先は少し複雑になります。
なぜなら、工事現場では複数の業者が合同で作業を行うことが多く、事故の原因にも複数の業者が関与している可能性があります。
例えば、下請け業者の従業員が足場の崩壊・倒壊事故にあった場合に考えられる損害賠償請求先は、以下の通りです。
下請け業者
下請け業者の従業員として現場で働き、労災事故が起こった場合、まずは自身の雇用先である会社(下請け業者)へ損害賠償を請求できる可能性があります。これは、会社には従業員に対する安全配慮義務があるからです。
足場での作業は危険な環境になるため、安全に備えて対策を講じる義務が会社にはあります。
危険防止のための措置に不備があった場合は、会社に安全配慮義務違反として損害賠償を請求することが可能です。
元請業者
元請業者と下請け業者の従業員となれば労働契約を締結しているわけではないため、労働契約上における安全配慮義務違反として労災事故に対する損害賠償を請求することはできません。ただし、安全配慮義務は特別な社会的接触関係に入った当事者間における不随義務と法律上では考えられています。
元請会社と下請け会社の従業員が実質的には使用関係もしくは間接的に指揮命令関係があった場合は、不随義務として元請会社にも安全配慮義務が生じるということです。
例えば、元請会社が足場の管理していた場合や、元請会社の工具などを使用していた場合、元請会社が現場において事実上の指揮監督を行っていた場合などが該当します。
こうしたケースでは元請業者に対して、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求を行うことができる可能性があります。
また、元請業者の従業員の過失で足場の崩壊・倒壊事故が起こった場合には、元請業社に対して使用者責任を理由に損害賠償を請求できます。
発注者
発注者も下請け業者の従業員と労働関係にないため、労働契約上の安全配慮義務を直接的に負うわけではありません。しかし、元請業者の場合と同様に、特別な社会的接触関係にある場合は発注者も安全配慮義務を負うことになります。
こうしたケースでは、発注者に対して損害賠償を請求することが可能です。
従業員個人
同じ会社で働く同僚や上司、元請業者や発注元の従業員など、従業員個人に対して損害賠償を請求できるケースがあります。従業員が故意や過失によって足場の崩壊・倒壊事故を起こした場合は、相手による不法行為を理由に損害賠償を請求できます。
従業員個人に損害賠償を請求できるケースには、以下のような例が挙げられます。
- ・同僚が足場でふざけていたせいで崩壊・倒壊事故が起こった
- ・発注元の従業員が重機の操作をミスし、足場が倒壊した
- ・天候が悪くて会社からは作業中断の指示がきていたものの、直属の上司が作業を無理やり続行するよう指示したことで足場の崩壊が起こった
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会社へ損害賠償請求を行う流れと方法
会社へ損害賠償を請求する場合の方法としては、「示談交渉」「労働審判」「訴訟」の3種類があります。それぞれの方法について、会社へ損害賠償請求を行う流れと併せて解説します。
労災保険の申請
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故が起こって負傷した場合、損害賠償請求をするか否かに関係なく、まずは会社へ報告をして病院にて治療を受けます。第三者の不法行為で事故が起こった場合は、警察へも届出ます。
そして、治療費などの補償を受けるための労災保険への申請を行いますが、会社が労働基準監督署へ届け出るケースが多いです。
会社が対応してくれないという場合には、労働基準監督署に相談して被害者自身が届け出ることが可能です。
後遺障害等級の申請
労災による治療が終了した際に症状固定と診断されれば、後遺障害の申請を検討することになります。後遺障害には等級があり、申請をすることで等級に合った補償を受けることが可能です。
後遺障害等級の申請には、医師の診断書などの必要書類を労働基準監督署に提出します。
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内容証明郵便の送付
労災における損害賠償を請求する場合、まずは会社と示談交渉をすることが一般的です。示談交渉をする前に、内容証明郵便を会社に送付して損害賠償を請求します。
内容証明郵便とは、差出人や宛先、文書の内容、差出日などが証明される郵便です。
内容証明郵便で送付することで、損害賠償請求を書面で送付したという事実を証拠として残し、裁判などで証明できます。
示談交渉
内容証明で賠償金額や損害賠償請求する根拠などが記載された書面が送付されているため、その内容に沿って会社と示談交渉を行います。直接会って話し合うというものではなく、内容証明郵便に対する回答書面が返送されるなどして話し合いが進められていきます。
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労働審判
労働審判は、事業者と労働者間の労働関係のトラブルを解決するための手続きです。示談交渉で合意に至らない場合は労働審判で解決を目指します。
労働審判は原則として3回の期日以内の期日で問題が解決するように進められ、訴訟に比べると簡易的な手続きといえます。
ただし、労働審判は労働関係のある事業者と労働者間のトラブルのみが対象になるため、元請業者や発注者などへの損害賠償請求には対応していません。
この場合は、裁判を提起します。
訴訟
労働審判の内容に不服がある場合は、裁判を提起します。訴訟の場合、会社に安全配慮義務や使用者責任があることを主張や立証する必要があります。
会社側に責任があることを証明できなければ敗訴になるため、訴訟では証拠集めが重要なポイントになるといえます。
裁判所を説得するための主張や証拠集めをするには、専門的な知識や周到な準備が必要です。
専門家である弁護士に相談しながら訴訟は準備を進めるべきでしょう。
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会社への損害賠償請求は弁護士に相談すべき理由
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故で会社への損害賠償請求を検討する場合、一人で対応せずに弁護士に相談しながら進めるべきといえます。損害賠償請求を弁護士に相談すべき理由は、以下の通りです。
適切な損害賠償を請求できる
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故は労災として会社は労災保険を申請してくれるため、労災保険からの補償である程度は補えると考える方もいるかもしれません。しかし、労災保険では損害が補いきれないことも多いです。
事故が大きいほど重度のケガや障害を負う可能性が高く、損害額も高額になります。
そのため、適切な損害額を請求できるように弁護士のサポートを受けることが大切です。
損害額の計算は複雑なものになるため、専門知識が必要です。
弁護士に相談することで適切な相手に適切な金額の損害賠償を請求できるようになるといえます。
代理人として交渉から裁判まで
任せられる
労災事故の損害賠償請求は会社との示談交渉から始まることが一般的ですが、自力で対応することは困難でしょう。
どのように交渉を進めていくべきか、どんな条件で示談すべきか分からないことも多いと思います。
弁護士に依頼すれば、代理人として示談交渉を任せることができ、適切な損害賠償額の請求に向けて交渉を進めてもらえます。
会社との交渉が決裂した場合の労働審判や訴訟も任せられるため、精神的負担が軽減されます。
まとめ
工事現場の足場の崩壊・倒壊事故での負傷や障害、死亡は、労災保険から保障を受けられますが、会社への損害賠償請求を検討できます。ただし、工事現場の事故は責任追及相手や証拠集めが複雑になりやすく、法的知識が無い状態で損害賠償を請求することは難しいでしょう。
弁護士に相談すれば、損害賠償請求の可否や、適切な損害賠償額を知ることができ、示談交渉から訴訟まで依頼することも可能です。
まずは、労災事故に詳しい弁護士にご相談ください。
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