過労自殺は、どのような場合に労災認定されるか?
最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
長時間の労働によって精神的な負担を生じ、その負担に起因として自殺をしてしまう場合があります。
ここでは、このような「過労自殺」の労災認定基準について解説します。
以前は、自殺は故意による死亡のため、労災保険給付の支給制限を定める「労災保険法」(正式名称:労働者災害補償保険法)において、自殺の場合は保険給付されないとされ、過労自殺は労災認定が否定されることが多くありました。
1.労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。
しかし、近年の自殺者の増加等を背景に、過労自殺を労災認定する例が増えてきています。
ちなみに、通達とは行政機関内部の文書で、上部組織が下部組織や職員に対して、法令の統一的見解や解釈、事務取扱上の基準などを示した文章です。
通達は、国民を法的に拘束するものではありません。
しかし、労働行政においてはかなり広い裁量を認められているため、事実上は拘束力があると言えるでしょう。
以下にポイントをまとめながら、過労自殺と労災認定について解説していきます。
害」に分類される精神障害のうち、次のようなものがあげられます。
・気分(感情)障害/うつ病・躁うつ病など
・神経症性障害/強迫神経症・不安障害など
・ストレス関連障害/重度ストレスへの反応および適応障害など
・統合失調症型障害・妄想性障害/統合失調症・持続性妄想性障害など
・症状性を含む器質性精神障害/認知症・健忘症候群など
➀ 対象疾病を発病していること。
➁ 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
➂ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
・上記の認定要件に加え、「心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件」としては、「対象疾病の発病の有無、発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があること」も明記されています。
・この場合の強い心理的負荷とは、精神障害を発病した労働者がその出来事及
び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、同種
の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり、
「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似す
る者をいう、としています。
これは、厚生労働省が公表している「業務による心理的負荷評価表」を基準に判断されます。
「強」「中」「弱」の三段階に区分されていて、総合評価が「強」と判断された場合、②が認められます。
この判断基準は非常に細かく分類されているのですが、おおむね次の3つのいずれかに該当した場合、過労自殺の労災認定がされます。
➀ 発症前1か月に160時間以上、または発症前3週間に120時間以上の法定時間外労働(残業)や休日労働をしていた場合。
➁ 発症前の連続した2か月間に、1か月当たり平均120時間以上の法定時間外労働(残業)や休日労働をしていた場合。
➂ 発症前の連続した3か月間に、1か月当たり平均100時間以上の法定時間外労働(残業)や休日労働をしていた場合。
なお、業務による強い心理的負荷は、仕事の失敗、役割・地位の変化や対人関係等、さまざまな出来事および、その後の状況によっても生じることから、この時間外労働時間数の基準に至らない場合にも、時間数のみにとらわれることなく心理的負荷の強度を適切に判断する、としています。
たとえば、心理的負荷の強度が「中」と判断される配置転換などの業務上の出来事の前後に、1か月に100時間程度の時間外労働をしていた場合などは、総合的に心理的負荷の強度が「強」と判断されるようです。
・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした。
(業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた。(故意によるものを除く)
・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの
しかし、近年では、遺書の存在自体が正常な認識、行為選択能力が著しく阻害されていなかったと判断することは必ずしも妥当ではないとされています。
つまり、遺書があった場合は、その内容や表現、作成時の状況等を把握したうえで、過労自殺に至る経緯における一資料として評価するとされています。
一方、過労自殺が労災認定されなかった場合でも、損害賠償請求が認められる可能性があります。
たとえば、労働者が業務とは関係ないところでうつ病を発症していたとしても、会社がうつ病の事実を知りながら、その労働者への配慮を怠ったことで自殺に至ったと判断されるようなケースです。
ここまで、過労自殺と労災認定、損害賠償請求について解説しましたが、
前述したように、業務上および業務以外での強い心理的負荷となる出来事や状況にはさまざまな基準があります。
また、労災認定を受けられなくても損害賠償請求ができる場合もあります。
ご遺族の方が、過労自殺による労災認定や損害賠償請求を望まれるなら、労災に詳しい弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
ここでは、このような「過労自殺」の労災認定基準について解説します。
目次
過労自殺と労災の関係とは?
過労自殺とは、労働災害(労災)における過労死の中でも、長時間労働やサービス残業などの過重労働やパワハラ・セクハラ等のために精神的・肉体的に追い詰められることなどから自殺に至るものです。以前は、自殺は故意による死亡のため、労災保険給付の支給制限を定める「労災保険法」(正式名称:労働者災害補償保険法)において、自殺の場合は保険給付されないとされ、過労自殺は労災認定が否定されることが多くありました。
労災保険法
第12条の2の21.労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。
しかし、近年の自殺者の増加等を背景に、過労自殺を労災認定する例が増えてきています。
過労自殺の労災認定要件とは?
過労自殺には法的に明確な定義はありませんが、労災認定については、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」という行政通達(平23・12・26 基発1226第1号)を基準とします。ちなみに、通達とは行政機関内部の文書で、上部組織が下部組織や職員に対して、法令の統一的見解や解釈、事務取扱上の基準などを示した文章です。
通達は、国民を法的に拘束するものではありません。
しかし、労働行政においてはかなり広い裁量を認められているため、事実上は拘束力があると言えるでしょう。
以下にポイントをまとめながら、過労自殺と労災認定について解説していきます。
対象疾病
この認定基準で対象とする疾病は、国際疾病分類で「精神および行動の障害」に分類される精神障害のうち、次のようなものがあげられます。
・気分(感情)障害/うつ病・躁うつ病など
・神経症性障害/強迫神経症・不安障害など
・ストレス関連障害/重度ストレスへの反応および適応障害など
・統合失調症型障害・妄想性障害/統合失調症・持続性妄想性障害など
・症状性を含む器質性精神障害/認知症・健忘症候群など
認定要件
次の3つの要件を満たした場合、業務上の疾病として取り扱われます。➀ 対象疾病を発病していること。
➁ 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
➂ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
・上記の認定要件に加え、「心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件」としては、「対象疾病の発病の有無、発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があること」も明記されています。
・この場合の強い心理的負荷とは、精神障害を発病した労働者がその出来事及
び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、同種
の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり、
「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似す
る者をいう、としています。
心理的負荷の強度
過労自殺において、上記の3つの要件の中でもっとも重視されるのは、長時間労働による②の心理的負荷の強度の判断です。これは、厚生労働省が公表している「業務による心理的負荷評価表」を基準に判断されます。
「強」「中」「弱」の三段階に区分されていて、総合評価が「強」と判断された場合、②が認められます。
この判断基準は非常に細かく分類されているのですが、おおむね次の3つのいずれかに該当した場合、過労自殺の労災認定がされます。
➀ 発症前1か月に160時間以上、または発症前3週間に120時間以上の法定時間外労働(残業)や休日労働をしていた場合。
➁ 発症前の連続した2か月間に、1か月当たり平均120時間以上の法定時間外労働(残業)や休日労働をしていた場合。
➂ 発症前の連続した3か月間に、1か月当たり平均100時間以上の法定時間外労働(残業)や休日労働をしていた場合。
なお、業務による強い心理的負荷は、仕事の失敗、役割・地位の変化や対人関係等、さまざまな出来事および、その後の状況によっても生じることから、この時間外労働時間数の基準に至らない場合にも、時間数のみにとらわれることなく心理的負荷の強度を適切に判断する、としています。
たとえば、心理的負荷の強度が「中」と判断される配置転換などの業務上の出来事の前後に、1か月に100時間程度の時間外労働をしていた場合などは、総合的に心理的負荷の強度が「強」と判断されるようです。
長時間労働以外の心理的負荷が極度のもの
また、過労自殺の要件として、長時間労働以外に、「心理的負荷が極度のもの」については次のような出来事があげられます。・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした。
(業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた。(故意によるものを除く)
・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの
過労自殺の労災認定と遺書の有無
以前は遺書がある場合、正常な認識や選択ができたと判断されることもありました。しかし、近年では、遺書の存在自体が正常な認識、行為選択能力が著しく阻害されていなかったと判断することは必ずしも妥当ではないとされています。
つまり、遺書があった場合は、その内容や表現、作成時の状況等を把握したうえで、過労自殺に至る経緯における一資料として評価するとされています。
労災認定と損害賠償請求
過労自殺が労災認定された場合、遺族は民事裁判において会社に対して損害賠償請求をすることができます。一方、過労自殺が労災認定されなかった場合でも、損害賠償請求が認められる可能性があります。
たとえば、労働者が業務とは関係ないところでうつ病を発症していたとしても、会社がうつ病の事実を知りながら、その労働者への配慮を怠ったことで自殺に至ったと判断されるようなケースです。
ここまで、過労自殺と労災認定、損害賠償請求について解説しましたが、
前述したように、業務上および業務以外での強い心理的負荷となる出来事や状況にはさまざまな基準があります。
また、労災認定を受けられなくても損害賠償請求ができる場合もあります。
ご遺族の方が、過労自殺による労災認定や損害賠償請求を望まれるなら、労災に詳しい弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。