労災事故の死亡慰謝料の相場は?労災保険との関係・請求方法
最終更新日 2024年 04月24日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
会社の安全配慮義務違反の責任による労災事故で死亡した場合、労働者は、会社に対して損害賠償をいらく請求できるのでしょうか。
この場合の死亡慰謝料の相場は2,000万円から2,800万円です。
その他に、近親者固有の慰謝料や、死亡逸失利益等の損害費目について保険金だけでは足りない分も請求できます。
もっとも、金額の相場を知っていたからと言って、必ずしも十分な額をもらえるとは限りません。労災保険・労災見舞金(弔慰金)との兼ね合いや慰謝料等の請求方法も押さえ、しっかり準備してから会社と対峙しましょう。
目次
労災事故で死亡した場合の慰謝料・損賠賠償金の相場
労災事故の死亡慰謝料は、遺族から見た本人の関係に基づいて2,000万円から2,800万円が相場です。ここで言う死亡慰謝料は、被災によって生じた精神的苦痛に対する支払いを意味します。
なお、被害者と労災遺族に必要な補償は、何も死亡慰謝料に限りません。
慰謝料以外の費目も合算した額を損害賠償金として、受け取るべき金額を適切に計算する必要があります。
労災死亡事故の損害に含まれる費用
労災事故による死亡事故に遭った場合、複数の費目に渡る損害を合算し、補償されるべき金額を判断します。死亡事故の損害を構成するのは、主に死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用の3つの費目です。
事故発生から亡くなるまでの間についても、救命・治療にかかる費用や、
出勤できず収入が途絶えた分の休業損害を考慮しなければなりません。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料の金額は、亡くなった労働者が家庭内で果たしていた役割に応じて変動します。弁護士が示談交渉や労働訴訟の対応にあたる時は、下の表に記載のある基準を採用します。
基準として紹介するのは、最も高額になる弁護士基準の慰謝料です。
父母・配偶者・子やこれらと実質的に同じ関係にある遺族も、近親者固有の慰謝料を請求できる可能性があります
(民法第711条)。
▼労災による死亡慰謝料の相場・目安(死亡者本人分)
被害者の状況 | 死亡慰謝料 |
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
独身の男女、子供、幼児等 | 2000万円~2500万円 |
【関連記事】
・労災事故の慰謝料の相場と慰謝料を増額する方法
死亡逸失利益の計算方法
労災事故の損害に含まれる死亡逸失利益とは、事故がなく元気であれば得たであろう将来の収入です。その性質上、慰謝料と並んで金額が大きくなりがちです。
個別の死亡逸失利益の金額は、就労可能年齢の上限を原則67歳として、次のように計算します。
▼労災の死亡逸失利益の算定式
{死亡前の年収 x (100 – 生活費控除率)%)} × 就労可能年数に対応する中間利息控除
{死亡前の年収 x (100 – 生活費控除率)%)} × 就労可能年数に対応する中間利息控除
労災死亡事故の損害賠償金の例
労災で死亡した場合の損害賠償金は、慰謝料だけでなく逸失利益の兼ね合いもあり、年齢や収入に応じて高額化します。以下で紹介するのは、一家の大黒柱である年収600万円の40歳男性が死亡した時の損害賠償金の例です(過失なし・保険給付の控除前)。
▼死亡慰謝料
2,800万円
▼死亡逸失利益
600万円 ×(100-35)% × 18.327 ≒ 7,147万円
※生活費控除率は35%、就労可能年数27年とした時のライプニッツ係数
※生活費控除率は35%、就労可能年数27年とした時のライプニッツ係数
▼その他の費用
葬儀その他の死後事務にかかった費用(労災支給分の控除後)
合計:9,947万円+葬儀その他の死後事務にかかった費用(労災支給分の控除後)+治療費等の入院や救命措置にかかった費用(労災支給分の控除後)
葬儀その他の死後事務にかかった費用(労災支給分の控除後)
合計:9,947万円+葬儀その他の死後事務にかかった費用(労災支給分の控除後)+治療費等の入院や救命措置にかかった費用(労災支給分の控除後)
労災事故で死亡した時の慰謝料・損害請求の考え方
労災事故で死亡した時の損害に対する補償は、労災保険の給付を得つつ、足りない部分は会社に支払ってもらいます。
会社の支払い分については、請求しようとする金額を相場・基準に沿って正確に計算し、保険給付の手続きとは別に損害賠償請求を進めなくてはなりません。
以下で説明する労災死亡事故の補償や損害賠償の考え方は、
死亡慰謝料等について相場以上の額をもらうための基礎知識です。
労災保険は認定さえあればもらえる
遺族給付等で構成される労災保険は、労働基準監督署が業務起因性・業務遂行性に基づいて事故を認定し、一定の方法で計算した金額を給付する制度です。その給付条件につき、事故について会社に責任があるかどうかは問いません。労働者に故意・過失があっても、よほどでない限り満額支払われます。
労災保険でカバーできない損害(死亡慰謝料等)
労災保険による保険給付は、労災認定さえあれば一定の金額がもらえる一方で、必要な補償を全額カバーするものではありません。特に、死亡慰謝料に対する労災の保険給付はゼロです。
死亡逸失利益に対応する遺族給付についても、年金につき遺族の続柄や年齢・状況が限られているため、結果的に不十分になる可能性があります。
参考記事:労災事故の損害賠償請求でもらえる金額の計算方法と相場・請求方法
会社に対する慰謝料等の請求は根拠と証拠が必要
労災保険でカバーできない死亡慰謝料等については、会社に請求して合意・和解・判決に至ることで支払われます。会社に対する請求では、労災保険制度の給付条件と違い、損害賠償責任の法的根拠を主張の中で指摘しなければなりません。
具体的には、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)や、職場関係者が原因を作った時に適用される使用者責任(民法第715条)等を追及することになります。
死亡慰謝料に保険給付分の調整は入らない
労災遺族に対し損害賠償責任を負う会社は、労災保険の給付で十分であり自分達の支払義務は残っていないと主張することがあります。確かに、請求するのは損害賠償金全体につき保険給付分を控除した額となりますが、上記会社の主張は間違いです。
特に死亡慰謝料については、適正額の100%を請求できます。
そもそも保険制度に慰謝料を対象とする給付がないため、給付分との調整など行いようがないからです。仮に障害給付・遺族給付等として高額の保険金があるとしても、別の費目である死亡慰謝料と調整するのは認められません。
会社の見舞金・弔慰金は前払い的性格を持つ
労災死亡事故では、労災保険による給付や損害賠償請求の結果とは別に、早い段階で会社から見舞金・弔慰金が支払われることがあります。支払いの種類としては下記のようなものが挙げられ、就業規則等にあるものは低額に留まります。
■慶弔見舞金・弔慰金:就業規則等に支払いの定めがある
■労災上積補償:同じく、就業規則等に基づく付加給付として支払われる
■上記に該当しないもの:会社の個別判断で、損害賠償請求より前に支払われる
注意したいのは、就業規則等になく個別に支払われる見舞金・弔慰金等には、会社にとって前払い的性格がある点です。
加えて、損害賠償請求の前に会社から支払われる見舞金等の相場は、死亡の場合300万円から500万円と高額です。
受け取れば、最終的に支払われる額から減額されるだけでなく、受け取り時の対応しだいで「もう損害賠償は済んだ」と主張される可能性すら考えられます。
労災事故の死亡慰謝料・損害賠償を会社に請求する方法
労災事故の死亡慰謝料等を会社に請求する場合、金額計算や証拠集めを丁寧に行わなければなりません。
事故発生直後からどんな方法で請求を進めるか知っておくことで、相場・目安に沿った慰謝料等を受け取るために必要な手配が分かります。
慰謝料請求・損害賠償請求の大まかな流れ
死亡慰謝料及びそれ以外の損害賠償を含めて会社に請求する時は、次のような流れで進みます。大量の申請書や証拠資料が必要になり、さらに高額の請求を巡って会社と対立する可能性が大きい点から、早い段階で弁護士に依頼して手続きしてもらうのが安全策です。
1.労災申請+損害額の計算
2.会社の損害賠償責任を立証するための証拠集め
3.会社に請求する額の計算(損害賠償金の計算+保険給付分との調整)
4.会社との示談交渉(話し合いで和解を目指す手続き)
5.労働審判・損害賠償訴訟(裁判で解決を目指す手続き)
2.会社の損害賠償責任を立証するための証拠集め
3.会社に請求する額の計算(損害賠償金の計算+保険給付分との調整)
4.会社との示談交渉(話し合いで和解を目指す手続き)
5.労働審判・損害賠償訴訟(裁判で解決を目指す手続き)
会社の損害賠償責任の立証方法
会社の損害賠償責任を立証するためには、なるべく客観的な資料を、出来るだけ多く集めなければなりません。具体例として、下記のような資料が挙げられます。
▼会社の損害賠償責任の証拠となるもの(一例)
・事故の調査復命書(労働基準監督署が作成する)
・事故の実況見分調書(警察が作成する)
・労働時間を示すもの(タイムカード等)
・同僚や退職者の証言
・本人の残した手記等
・事故の調査復命書(労働基準監督署が作成する)
・事故の実況見分調書(警察が作成する)
・労働時間を示すもの(タイムカード等)
・同僚や退職者の証言
・本人の残した手記等
責任立証のための証拠集めは、被害者死亡により忙しくても、素早く動くことが大切です。
時間が経てば、それだけ証拠隠滅の可能性が大きくなるためです。
労災の死亡慰謝料等を十分に支払ってもらうには
労災遺族による死亡慰謝料等を含めた損害賠償請求では、さまざまな理由をつけて支払いを渋られがちです。会社が減額や支払義務がないことを主張しようとする時は、労働者の落ち度や自分達に責任がないことを指摘するため、十分な準備を行っています。
そこで、なるべく「家族が重大な労災事故に巻き込まれた」「家族が重篤な発作で搬送された」と分かった時点で、すぐ弁護士に相談するようにしましょう。
その時点から会社との接触は慎重に行い、慰謝料等の減額要因となる病歴・事故発生の経緯や状況について資料を集め始める必要があるからです。
▼弁護士に相談するメリット
・死亡慰謝料を弁護士基準で計算・請求できる
・事故発生直後から会社との対応を任せられる
・損害額及び会社に請求できる額を適切に計算できる
・証拠として必要な資料の開示請求を任せられる
・過酷になりがちな会社との示談交渉を任せられる
・裁判で解決を目指す際、代理人として必要な主張をしっかり行える
・死亡慰謝料を弁護士基準で計算・請求できる
・事故発生直後から会社との対応を任せられる
・損害額及び会社に請求できる額を適切に計算できる
・証拠として必要な資料の開示請求を任せられる
・過酷になりがちな会社との示談交渉を任せられる
・裁判で解決を目指す際、代理人として必要な主張をしっかり行える
参考記事:労災事故で弁護士に相談・依頼するメリットとデメリット
おわりに│労災事故での死亡慰謝料等の相場の考え方
労災事故で死亡した時の慰謝料の相場は、被害者の家庭内での役割によって2,000万円~2,800万円です。実際に補償されるべき額は死亡慰謝料に留まらず、年齢・収入に応じた死亡逸失利益その他の費目も含みます。うち労災保険で足りない部分は、会社の責任を主張・立証して損害賠償請求に臨まなくてはなりません。
相場に沿った、あるいは被害者と労災遺族の状況から適正と思われる金額を受け取るために、次のポイントを押さえておきましょう。
・労災保険の給付分につき、死亡慰謝料との調整は行われない
・個別に高額な労災見舞金・弔慰金を受け取ると、後に控除がある
・死亡慰謝料を含めて十分な補償を得るため、早期の弁護士相談が不可欠
・個別に高額な労災見舞金・弔慰金を受け取ると、後に控除がある
・死亡慰謝料を含めて十分な補償を得るため、早期の弁護士相談が不可欠
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