労働災害(労災)による過労死での慰謝料請求法を弁護士が解説
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
目次
過労死とは
過酷な労働条件で仕事をしていて、ある時、死に至る場合があります。その時、「過労死」が疑われます。
過労死というのは、過度な労働負担が誘因となって、くも膜下出血や脳梗塞、心筋梗塞、急性心不全などを発症し、死に至る場合をいいます。
一家の大黒柱である夫(妻)が、突然倒れ、亡くなってしまう、という事態に遭遇したご遺族の衝撃は、すさまじいものがあると思います。
医療機関において、明確な死因が判明しないような場合で、死亡の前に過度な労働が続いていたような場合には、「過労死ではないか?」という疑問が生じると思います。
この場合には、まず「過労死」の労災認定を求めることになります。
過労死の労災認定というのは、被災者が働いていた事業所を所轄する労働基準監督署長に対して申請を行い、被災者の死亡が労働災害(労災)に該当するのかどうか、について判断を求めるものです。
労災申請は、事業者と協力して進めるのが通常ですが、必ずしも事業者の協力が得られなくても申請をすることができます。
そして、「業務による明らかな過重負荷を受けたことにより」脳・心臓疾患が発症した場合は労災認定されることになります。
過労死の基準には、次の3種類があります。
(1)異常な出来事
これは、発症直前から前日までの間に、発生状態を時間的場所的に明確にしうる異常な出来事に遭遇したこと、です。
たとえば、次のような場合です。
①業務に関連して重大な人身事故や重大事故に直接関与して、著しい精神的な負荷を受けてしまったような場合
②事故の発生に伴って、被害にあった人の救助活動や事故の処理などに携わり、著しい身体的負荷を受けたような場合
③屋外作業中、とても暑い作業環境下で水分補給ができないような状態や特に温度差がある場所へ頻繁に出入りしたような場合
(2)短期間の過重業務
これは、発症に近接した時期において、日常業務に比較して特に過重な身体的・精神的な負荷がある業務に就労したこと、です。
①発症直前から前日までの間の業務が特に過重であった場合
②そうでなかったとしても、発症前のおおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合
などの要素で判断します。
(3)長期間の過重業務
これは、発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと、です。
発症前のおおむね6ヶ月間で判断します。
たとえば長時間労働の場合、発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働がある場合や、発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働がある場合は、業務と発症との関連性は強い、と判断されます。
労働時間と労働時間以外の負荷要因の考え方
労働時間以外の負荷要因において一定の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断することとされています。その際、上記の労働時間のの水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断することとされています。
ここで、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮するに当たっては、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることに留意することとされています。
労働災害(労災)認定がされた場合の補償の種類
労働災害(労災)認定がされると、次のような補償を受けることができます。
①療養補償給付
治療費全額が支給され、自己負担分はありません。
②休業補償給付
治療のため休業している期間について、一定の計算式で支給されます。
③障害補償給付、特別給付金
後遺障害が残る場合、後遺障害等級1級~14級に応じて支給されます。
④遺族補償給付
遺族補償年金、遺族特別支給金、遺族特別年金の遺族補償給付金と葬祭料が支給されます。
⑤傷病補償給付
業務上の負傷ないし疾病が療養開始後1年6月を経過しても治らず、障害の程度が傷病等級に該当するときに傷病補償年金、傷病特別支給金、傷病特別年金が支給されます。
⑥介護補償給付
傷病補償年金受給者につき、その障害が一定のもので、かつ、その者が現に介護を受けているときに支給されます。
⑦労災修学等援護費
就学中の遺族に対して支給されるものです。
このうち、過労死の場合には、葬祭料と遺族補償給付が主な給付金となります。
過労死の場合、死亡の翌日から次のとおり、2年または5年の経過により時効により請求ができなくなりますので、ご注意ください。
2年の時効・・・療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付
5年の時効・・・障害補償給付、遺族補償給付
労働災害(労災)で過労死を証明するための収集資料
過労死を認定してもらうためには、上記要件からもわかるように、死亡前の労働時間が重要になってきます。
そこで、労働災害(労災)の申請の前に、できる限り事業者から次のような資料を取り寄せて、労働基準監督署に提出することが大切になってきます。
・タイムカード
・出勤簿
・業務日誌
・賃金台帳
・給与明細書
・入室退室の電磁的記録
その他、事業者が持っている被災者の労働を証明する記録
その他、被災者が日々つけていた日記や手帳、スマートフォンの記録なども確認しておきましょう。
労働災害(労災)による過労死での民事損害賠償
次に、労働災害(労災)による過労死は、使用者(会社)が過酷な労働をさせたために生じたものだとして、遺族が使用者(会社)に対して民事の損害賠償を請求することが考えられます。
その根拠は、「不法行為」または、「安全配慮義務」の違反に基づく損害賠償請求です。
「不法行為」は、使用者の故意または過失に基づき、労働者が生命、身体の健康を損なう危険があることが予想されるような場合には、それを回避する注意義務を負っているのに、その注意義務を怠った場合に成立します。
電通過労自殺事件について、最高裁平成12年3月24日判決は、「労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負担等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険性があることは、周知のところである」として、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判断しています。
次に「安全配慮義務」についてです。
労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。
また、最高裁昭和59年4月10日判決は、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」がある、としています(川義事件)
そして、使用者(会社)は、「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所などについて適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施したうえ労働者の年齢、健康状態などに応じて従事する作業時間および内容の軽減、就労場所の変更等適切な措置を採るべき義務」を負います(東京高裁平成11年7月28日判決・システムコンサルタント事件)。
使用者(会社)がこの義務に違反して、たとえば、継続的に困難で精神的緊張度の高い過重な業務等を行わせたような場合に、それがきっかけとなって労働者の基礎疾患を増悪させ、それによって死亡させたという因果関係が肯定されるような時は、過労死に対する損害賠償義務が発生します。
過去の過労死に対する判例を概観します。
過労死判例その1(東京高裁平成11年7月28日判決・システムコンサルタント事件)
コンピューターのソフトウェア開発等の業務を行っていた労働者が、年間3,000時間もの長時間労働により脳出血を起こして死亡した事例で東京高裁は、使用者に対し、約3200万円の損賠償を命じました。
判決では、労働者が、毎年健康診断で高血圧であって治療が必要な状態であることを知りながら治療を受けず、体重を減らす努力もしていなかったなどの基礎的要因があることを指摘し、賠償額を50%減らして、上記の賠償額としたものです。
過労死判例その2(大阪高裁平成16年7月15日判決・関西医科大学事件)
医科大学を卒業後、その付属病院の耳鼻咽喉科で研修していた研修生が、平日7時30分ころから22時~23時まで勤務し、休日も勤務し、時間外でもポケットベルで呼び出される、というような過酷な勤務に従事していたところ、自宅で急性心筋梗塞で死亡した、という事例で、裁判所は、使用者に対し、1億3500万円の損害賠償を命じました。
判決では、研修生が、ブルガダ症候群という疾患を素因として有していたことから、15%の素因減額を認め、上記の賠償額としたものです。
過労死判例その3(大阪地裁平成15年4月4日判決・南大阪マイホームサービス事件)
リフォーム工事などを業務とする会社の資材業務課課長をしていた労働者が、拡張型心筋症という疾患があり、健康診断で入院・生検すべきと診断が出ていたにもかかわらずそのまま継続的に長時間労働をした結果、急性心臓麻痺で死亡した、という事例で、裁判所は、使用者に対し、約3960万円の損害賠償を命じました。なお、これ以外にも未払残業代の支払も命じています。
この判決では、労働者に拡張型心筋症の疾患があったことが素因とされ、賠償額を50%減らして、上記の賠償額としたものです。
過労死の損害賠償は、どうやって請求するのか?
被災者の遺族が使用者に対し、過労死に基づく損害賠償請求をする、といっても、具体的には、どのように請求すればよいのでしょうか。
このような場合、使用者としては、「死亡退職金」や「弔慰金」名目で、一定額の金員を支払って、終わりにしようとすることが多くあります。
遺族としては、その金額で解決してよいかどうか、判断に迷うのではないでしょうか。
この場合の判断基準としては、次のようになります。
①過労死に基づく損害賠償の前提となる損害額はいくらか?
②使用者に不法行為または安全配慮義務違反はあるか?
③過失相殺などの減額事由があるか?
これらを検討して、使用者に対し、過労死に基づく損害賠償請求をするかどうかを判断することになります。
そうすると、かなり高度の法的判断をしなければならなくなりますので、過労死の損害賠償を検討している方は、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
みらい総合法律事務所でも過労死での損害賠償のご相談は無料でお受けしておりますので、遠慮なくご相談ください。