労災の後遺障害2級の認定基準・給付の金額と慰謝料額
最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
労働災害で随時介護を要するレベルである後遺障害2級を負った場合、労災保険制度では、障害(補償)給付として一時金320万円、おおよそ日割り賃金277日分に相当する年金の給付があります。
また、会社について安全配慮義務違反などによる法的責任が認められる場合には、慰謝料として2,300万円の請求が可能です。
本記事では、2級認定のための基礎知識として下記を押さえます。万一の時、被災労働者とその家族が穏やかな生活を取り戻すための手がかりとなるはずです。
・労災保険給付と後遺障害2級との関係に関する基礎知識
・後遺障害2級の認定範囲、認定基準
・後遺障害2級に認定されるためのポイント
・後遺障害2級の認定範囲、認定基準
・後遺障害2級に認定されるためのポイント
目次
労災と後遺障害2級の基本
労働者が業務中または通勤中の事故で体に傷を負った場合、その後遺症によって生活に支障が出ることがあります。その際、労働者災害補償保険、通称労災保険が重要な役割を果たします。具体的には、障害の程度に応じて補償が行われるのですが、その障害の程度を示すのが「後遺障害等級」です。
後遺障害2級とはどのような状態を指すのか、等級認定が労災保険給付にどのように影響するのか、基礎知識を整理しておきましょう。
労災保険の給付内容
業務上の事故や疾病(業務災害)、通勤中の災害(通勤災害)によって治療が必要となった場合、治療費に対応する療養(補償)給付や、療養中の収入を補償する「休業(補償)給付」が労災保険でもらえます。保険には、その他にも後遺障害や死亡、長期療養に対応する給付が存在します。
▼労災保険の基本的な給付内容
給付の種類 | 給付内容 |
療養(補償)給付 | 治療費など、通常療養のために必要な費用を全額補償 |
休業(補償)給付 | 療養4日目からの休業損害につき80%補償 (給付基礎日額の60%+特別支給金として給付基礎日額の20%) |
障害(補償)給付 | 後遺障害につき一時金+年金で補償 |
傷病(補償)給付 | 第3級以上の後遺障害等級かつ治療期間が1年6か月を超えた時、 休業損害について一時金+年金で補償 |
介護(補償)給付 | 介護が必要となった場合に給付 常時介護の場合:介護の状況に応じて最大172,550円 (令和5年4月以降) 随時介護の場合:介護の状況に応じて最大86,280円(同上) |
その他の給付 | 二次健康診断等給付、社会復帰促進等事業による給付 |
後遺障害2級に認定される範囲
労災で第2級に認定される後遺障害は、労働者災害補償保険法施行規則の「障害等級表」で範囲が決められています。大きくは目の障害、脳や精神の障害、胸腹部臓器の障害、手足の障害の4つに分類できますが、等級表に記載があるのは次の通りです。
・一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの(1号)
・両眼の視力が0.02以下になったもの(2号)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(2の2号)
・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(2の3号)
・両上肢を手関節以上で失ったもの(3号)
・両下肢を足関節以上で失ったもの(4号)
・両眼の視力が0.02以下になったもの(2号)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(2の2号)
・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(2の3号)
・両上肢を手関節以上で失ったもの(3号)
・両下肢を足関節以上で失ったもの(4号)
労災保険による適正な障害等級認定の必要性
後遺障害の等級認定は労働者災害補償保険法に基づいて行われ、障害(補償)給付をはじめとする障害に対応した保険給付のため必要です。給付額は、第1級から第14級まである等級によって異なります。被災労働者のリハビリテーションや生活支援の観点から、症状に合う適正な等級に認定されるよう対応しなければなりません。
【関連記事】
・労災で適切に後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは
・労災で適切に後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは
後遺障害2級の労災保険給付と慰謝料
労災保険制度で後遺障害2級に認定された場合、障害補償年金(障害年金)、障害特別年金、障害特別支給金など多額の支給があります。
労災保険の障害(補償)給付及び慰謝料の基準は次の通りです。
労災保険給付及び慰謝料の基準
第2級の後遺障害に認定された場合、一時金として320万円、直近の給料や賞与を元に計算した賃金の約277日分の年金が給付されます。その他、障害等級2級だと通常随時介護が必要となることから、介護状況に応じて給付があります。
▼後遺障害2級に認定された時の主な労災保険給付の内容
障害補償年金(障害年金) | 給付基礎日額の277日分 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の277日分 |
障害特別支給金 | 320万円 |
その他 | 随時介護が前提となるため最大86,280円の介護(補償)給付、二次健康診断等給付、社会復帰促進等事業による給付、一部の障害に対しアフターケア制度による給付 |
また、入通院や後遺障害によって負った精神的苦痛に対しては、会社に対して2,300万円(弁護士基準)の慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料請求は会社の法的責任を証明する必要がある
労災の後遺障害について慰謝料を請求すべきケースでは、労災保険だと該当する給付がなく、勤務先や委託企業に請求する必要があります。この時注意したいのは、労災保険は無過失責任(使用者に責任がなくても支払う)の考え方を取るのに対し、会社が負う慰謝料の支払い義務は使用者の故意・過失に基づく点です。
▼会社に追求できる可能性がある法的責任
・民法上の不法行為責任(第709条)
・安全配慮義務違反による債務不履行責任(労働契約法第5条・民法第415条)
・使用者責任(民法第715条)
・民法上の不法行為責任(第709条)
・安全配慮義務違反による債務不履行責任(労働契約法第5条・民法第415条)
・使用者責任(民法第715条)
損害賠償請求によって慰謝料を支払ってもらうには、法的責任の主張・立証や被害状況の証明のため、弁護士などの専門家のサポートが原則必要です。
第2級の後遺障害は慰謝料が高額化するため、示談交渉から訴訟へと移って請求手続きが長引く可能性が大きく、知識や経験に基づく適切な対応が求められます。
【関連記事】
・労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ
・労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ
労災保険における後遺障害2級の認定基準
障害等級表に該当するケースは、別に省令・通知などで定める「障害等級認定基準」で詳しく定められています。上記基準では、検査結果に基づく等級の判断基準、症状や介護の状況に基づく等級認定の例などが紹介されており、保険給付請求(等級認定のための手続き)で特に重要です。
以下で紹介するのは、第2級各号に関する障害等級認定基準の内容です。
目に関する障害(第2級の1号または2号)
労災保険制度で後遺障害2級に認定される視力障害は、いずれか一眼が失明してもう片方も視力0.02以下となるか、両眼とも視力0.02以下となる場合です。認定基準を知る上では「失明」と「視力」をどのように定義、あるいは測定するのかが重要です。
▼失明とは
眼球を失ったもの、明暗を区別できないもの、またはほとんど区別できないものを指します。これには、光覚弁や手動弁が含まれます。
▼視力とは
正視力を指します。正視力とは、不等像視(左右で大きさ・形が異なる見え方)を回避しつつ、眼鏡やコンタクトレンズによって矯正した視力のことです。原則として万国式試視力表に基づいて測定します。
【関連記事】
・労働災害(労災)で、失明してしまった場合の慰謝料額は?
・労働災害(労災)で、失明してしまった場合の慰謝料額は?
神経系統の障害(第2級の2の2)
労災保険制度で等級認定される神経系統の障害は、高次脳機能障害、脳の損傷による身体性機能障害、脊髄損傷による障害という3つの主要な形で現れます。これらは、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要する状態が第2級に認定されます。
▼高次脳機能障害の認定基準
後遺障害第2級に認定される高次脳機能障害とは、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するものです(下記一覧のいずれかに該当する場合)。
等級認定の判断は、器質的病変が確認できる画像所見の他、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つの能力の評価を元とします。
・重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
・高次脳機能障害による痴ほう、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
・重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
・高次脳機能障害による痴ほう、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
・重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
▼脳の損傷による身体性機能障害の認定基準
後遺障害2級に認定される脳の損傷による身体性機能障害とは、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するものです(下記一覧のいずれかに該当する場合)。
等級認定の判断は、身体的所見及びMRI・CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲及び程度と、介護の有無及び程度を元とします。
・高度の片麻痺が認められるもの
・中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
▼脊髄損傷による障害の認定基準
後遺障害2級に認定される脊髄損傷による障害とは、せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するものです(下記一覧のいずれかに該当する場合)。
等級認定の判断は、基本的には脳の損傷と同じく、画像所見や実際の介護の程度及び状況などに基づきます。
・中等度の四肢麻痺が認められるもの
・軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
胸腹部臓器の機能障害(第2級の2の3)
労災保険で障害等級認定のある胸腹部臓器は多岐に渡りますが、単一の症状だけで第2級の後遺障害に該当するのは、基本的に「呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの」に限られます。複数の臓器に障害を残している場合は、介護の程度や労務への影響度を総合的に判断し「労務に服することができず、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」について第2級に認定されます。
▼呼吸器の障害の認定基準
原則として動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果で判定します。
判定の結果が第3級以下なら、スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定や運動負荷試験の結果による判定を行い、結果以下いずれかに該当する場合は第2級の2の3となります。
・動脈血酸素分圧が50Torr以下で、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
・動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下で、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
・高度の呼吸困難が認められ、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
・動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下で、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
・高度の呼吸困難が認められ、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
上肢並びに下肢の障害(第2級の3・第2級の4)
労災保険で後遺障害2級に認定される手足の障害は、両腕または両脚を一定の部位以上で切断、または離断した場合を指します。具体的には、次のような認定基準があります。▼両上肢を手関節以上で失ったもの(第2級の3)の認定基準
以下いずれかに該当する場合
・ひじ関節と手関節の間において上肢を切断したもの
・手関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離断したもの
▼両下肢を足関節以上で失ったもの(第2級の4)の認定基準・手関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離断したもの
以下いずれかい該当する場合
・ひざ関節と足関節との間において切断したもの
・足関節において、脛骨及び腓骨と距骨とを離断したもの
・足関節において、脛骨及び腓骨と距骨とを離断したもの
労災保険の後遺障害等級認定の手続きとポイント
後遺障害2級の認定を得るための認定では、手続きの流れを押さえ、適正な認定のため医療機関の受診・入通院を丁寧に行なっていくことが重要です。
万一にも認定結果に不満がある場合や、症状が改善または悪化した場合には、審査請求あるいは再認定で現在の状況に合う適正な等級を獲得することも可能です。
これらの手続きの流れとポイントを頭に入れておくと、被災労働者のリハビリや生活の再構築に必要なだけの補償を受け取るのに役立つはずです。
等級認定の手続きの流れ
労災保険制度による等級認定申請の手続きを始められるのは、医学的に有効と見られる治療を続けてもこれ以上は改善しないと判断された時(=症状固定)です。症状固定日を迎えると、障害(補償)給付用の請求書を作成し、医師に後遺障害診断書を作成してもらいます。
上記資料及びその他の資料(給与明細や医療費の明細など)を添付して所轄の労働基準監督署に提出すると、おおよそ3か月程度で支給または不支給に関する通知が届き、本通知ハガキに認定された障害等級が記載されています。
後遺障害2級認定のポイント
労災保険制度で後遺障害第2級に認定されるためのポイントとして、出来るだけ専門医のもとでしっかりと治療を受け、事故発生直後から随時然るべきタイミングで検査を受けるよう心がけましょう。また、第3級以上の重い障害に該当するケースでは、介護の程度及び状況を適切に証明することも重要です。そのためには、医師の意見書(治療経過や検査結果などから総合的に判断した医学的見地での意見をまとめたもの)や、家族や本人視点での不便をまとめた「日常生活報告書」も要となります。
再認定・審査請求の方法
労災保険の等級認定後、症状が改善または悪化した場合、再認定を申請することが可能です。また、認定結果に不満がある場合には「審査請求」も行えます。▼再認定の申請方法
「労災保険給付等変更申請書」を労働基準監督署に提出します。申請書には、前回の等級認定からどのように悪化したのか分かるよう、医師による「再認定のための診断書」も提出しなくてはなりません。
▼審査請求の申請方法
「労災保険給付等不服審査請求書」を労働基準監督署に提出します。不服の理由を具体的に記載に、さらに初回には提出しなかった新しい資料を添付しなくてはなりません。
ここで言う新しい資料とは、認定結果の通知後に受けた検査や治療などによる、画像所見・神経学的所見・その他の所見が記載された医学的資料です。
いずれの手続きも、被災労働者や家族だけでは対応が難しく、労働災害による障害について等級認定例や医学的知識を持つ弁護士にフォローしてもらう必要があります。
おわりに|労災で重い障害を負うケースは慎重に対応を
業務災害または通勤災害で後遺障害2級に認定されると、給付基礎日額277日分+算定基礎日額277日分の年金に、320万円の一時金、一定限度での介護(補償)給付などを受け取れます。労働災害の発生について会社が責任を負う場合は、被災労働者の負った精神的苦痛を事故状況などの立証を通じて主張することで、2,300万円を目安に慰謝料請求も可能です。
労災保険給付の制度はただでさえ複雑であるにもかかわらず、後遺障害2級ともなると症状及び介護の程度を慎重に立証する必要があります。
また、会社との示談交渉では、労災見舞金の受け取りに関する判断から交渉の方針まで、しっかりした対応が必要です。万一の時は、なるべく早期に弁護士に相談しましょう。
【関連記事】
・労災で弁護士に相談すべき5つの理由
・労災で弁護士に相談すべき5つの理由