頸椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折等による後遺障害
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
●脊椎圧迫骨折とは?
背骨(脊柱)には、7つの「頸椎」、12個の「胸椎」、5つの「腰椎」などがあります。 業務中の事故等で背骨に大きな外力を受けるなどして、これらの椎骨が圧迫されてつぶれた状態になるのが脊椎圧迫骨折です。
●認定される後遺障害等級と慰謝料の相場金額は?
脊柱の変形障害や運動障害の後遺症が残ってしまった場合は、次の後遺障害等級が認定される可能性があります。
6級4号 | 脊柱に著しい畸形又は運動障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
11級5号 | 脊柱に変形を残すもの |
後遺障害慰謝料の相場金額は次のようになります。
後遺障害6級 | 1,180万円 |
後遺障害8級 | 830万円 |
後遺障害11級 | 420万円 |
●労災とは?
仕事中の業務が原因で、労働者の方がケガや病気、障害、死亡に至った場合を「労働災害(労災)」といいます。 労災は、大きく2種類に分けられます。
業務災害 | 業務中のケガなど |
通勤災害 | 通勤中の交通事故等によるケガなど |
●被災者は会社に損害賠償請求できる
労災認定を受けると、労災保険から各種給付金を受け取ることができます。
しかし、これら給付金だけでは被災者の方への補償が不足する場合があり、そういったケースでは、会社に対して「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償請求をすることができます。
本記事では、労災で脊椎圧迫骨折の後遺障害が残った場合の後遺障害等級認定と慰謝料の金額について解説します。
目次
労災による頸椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折を解説
(1)労災とは?
労働(仕事)中の業務が原因となり、傷害(ケガ)や病気、障害、死亡に至った場合を「労働災害(労災)」といいます。
労災は、「業務災害」(業務中のケガなど)と、「通勤災害」(通勤中の交通事故等によるケガなど)の2種類に分けられます。
作業中に高所から転落などして脊椎を圧迫骨折した場合は業務災害、通勤中にあった交通事故での骨折は通勤災害になります。
【参考情報】:「業務災害について」(厚生労働省)
【参考情報】:「通勤災害について」(東京労働局)
【関連動画】(2)頸椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折の特徴について
背骨は一本の骨ではなく、一つひとつの脊椎からなりなっており、7つの「頸椎」、12個の「胸椎」、5つの「腰椎」、5つの「仙椎」、3~5個の「尾椎」で構成されています。
脊椎と脊椎の間には「椎間板」と呼ばれる軟骨があり、クッションの役目をしながら、背骨のなめらかな動きを可能にしています。
各脊椎骨の特徴と役割 |
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頸椎 | 頭部を支え、首の前後屈・横屈・左右回旋などの運動を可能にしています。 |
胸椎 | 頸椎と腰椎の間にあって、脊椎の中央部分を構成しています。 |
腰椎 | 脊椎の中でもっとも大きな骨で、身体全体を支え、腰の動きを可能にしています。 |
業務中の事故や交通事故で大きな衝撃を受けた場合に、椎体(椎骨の円柱の形をしている部分)が圧迫されてつぶれた状態になる場合があり、これを「脊椎圧迫骨折」といいます。
脊椎圧迫骨折は、部位によって「頸椎圧迫骨折」「胸椎圧迫骨折」「腰椎圧迫骨折」に分けられます。
頸椎・胸椎・腰椎の圧迫骨折で認定される後遺障害等級
脊椎圧迫骨折の後遺症
脊椎圧迫骨折の傷害(ケガ)を負って治療を行なったものの、症状固定(これ以上の改善が難しい状態)の診断を医師から受けると、労災の被災者の方には後遺症が残ってしまうことになります。<脊椎圧迫骨折の主な後遺症>
- ・立つ・座る・お辞儀するなどの動作が制限される。
- ・上記動作をしようとすると、つっぱったり痛くなったりする。
- ・杖がないと歩けない(歩行障害)。
- ・歩行中に脚が痺れたり、力が入らなくなる(間欠性跛行)。
- ・失禁する、上手く排便できない(膀胱直腸傷害)。
- ・疼痛や発汗の異常が生じる(CRPS/複合性局所疼痛症候群)。
(2)脊椎圧迫骨折の後遺症で認定される後遺障害等級
脊椎圧迫骨折では、脊柱の変形や運動障害といった後遺症が残ってしまい、次のような後遺障害等級が認定される可能性があります。
脊椎の変形又は運動障害 |
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6級4号 | 脊柱に著しい畸形又は運動障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
11級5号 | 脊柱に変形を残すもの |
【参考資料】:「労災の障害等級表」(厚生労働省)
【関連動画】
脊柱の変形障害と運動障害について詳しく解説
(1)脊柱の変形障害
脊柱の変形障害については、上記のように「脊柱に著しい変形を残すもの」、「脊柱に中程度の変形を残すもの」、「脊柱に変形を残すもの」の3段階に区別されています。
「脊柱に著しい変形を残すもの」、および「脊柱に中程度の変形を残すもの」は、脊柱の後彎または側彎の程度等により等級を認定します。
この場合、脊柱の後彎の程度は、脊椎圧迫骨折、脱臼等により前方椎体高が減少した場合に、減少した前方椎体高と当該椎体の後方椎体高の高さを比較することにより判定します。
また、脊柱の側彎は「コブ法」による側彎度で判定します。
コブ法とは下図のとおり、X線写真により、脊柱のカーブの頭側および尾側において、それぞれ水平面から最も傾いている脊椎を求め、頭側で最も傾いている脊椎の椎体上縁の延長線と尾側で最も傾いている脊椎の椎体の下縁の延長線が交わる角度(側彎度)を測定する方法です。
①「脊柱に著しい変形を残すもの」
「脊柱に著しい変形を残すもの」とは、X線写真、CT画像又はMRI画像により、脊椎圧迫骨折等を確認することができる場合であって、次のいずれかに該当するものをいいます。- 脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているもの。
この場合、「前方椎体高が著しく減少」したとは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ以上であるものをいいます。 - 脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生ずるとともに、コブ法による側彎度が50度以上となっているもの。
この場合、「前方椎体高が減少」したとは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるものをいいます。
②「脊柱に中程度の変形を残すもの」
「脊柱に中程度の変形を残すもの」とは、X線写真、CT画像またはMRI画像により脊椎圧迫骨折等を確認することができる場合であって、次のいずれかに該当するものをいいます。- 脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生ずるとともに、コブ法による側彎度が50度以上となっているもの。
この場合、「前方椎体高が減少」したとは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるものをいいます。 - コブ法による側彎度が50度以上であるもの。
- 環椎または軸椎の変形・固定(環椎と軸椎との固定術が行われた場合を含む。)により、次のいずれかに該当するもの。
このうち、aおよびbについては、軸椎以下の脊柱を可動させずに(当該被災者にとっての自然な肢位で)、回旋位または屈曲・伸展位の角度を測定すること。 - a. 60度以上の回旋位となっているもの。
- b. 50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位となっているもの。
- c. 側屈位となっており、X線写真等により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの。
③「脊柱に変形を残すもの」
「脊柱に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがX線写真、CT画像またはMRI画像により確認できるもの。
- 脊椎固定術が行なわれたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く)。
- 3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの。
(2)脊柱の運動障害
①「脊柱に著しい運動障害を残すもの」
「脊柱に著しい運動障害を残すもの」とは、次のいずれかにより頸部および胸腰部が強直したものをいいます。- 頸椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、そのことがX線写真等により確認できるもの。
- 頸椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行なわれたもの。
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの。
②「脊柱に運動障害を残すもの」
「脊柱に運動障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。- 次のいずれかにより、頸部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたもの。
- a. 頸椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがX線写真等により確認できるもの。
- b. 頸椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの。
- c. 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの。
- 頭蓋・上位頸椎間に著しい異常可動性が生じたもの。
損をしない!労災で会社に損害賠償請求する方法
(1)労災保険から受け取れる給付金について
労災保険からの給付金一覧 |
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①療養補償給付 | 診察、治療などに対する補償。 |
②休業補償給付 (休業給付) |
ケガの治療ために労働できない場合、休業の4日目から休業が続く間の補償が支給されるもの。 |
③傷病補償年金 (傷病年金) |
治療開始後1年6か月を経過しても治らない場合、傷病等級に応じて支給されるもの。 |
④障害補償給付 (障害給付) |
ケガが治った、もしくは症状固定(それ以上の回復が見込めない状態)後に後遺障害等級(1~14級)に基づいて支給されるもの。 |
⑤介護補償給付 (介護給付) |
後遺障害等級が1級と2級で常時介護が必要になった場合の補償。 |
⑥遺族補償年金 (遺族年金) |
労働者が死亡した場合、遺族に支給されるもの。 |
⑦葬祭料 (総裁給付) |
労働者が死亡した場合、支給される費用。 |
【参考資料】:「労災保険給付の概要」(厚生労働省)
(2)安全配慮義務違反に基づく会社への損害賠償請求とは?
しかし、ここで問題が生じる場合があります。それは、労災保険からの給付金だけでは、被災者の方が受け取るべき損害賠償が足りないという問題です。
こうした場合、被災者の方は会社に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることができます。
なお、法的根拠は、「労働契約法」第5条(労働者の安全への配慮)、および「労働安全衛生法」第24条(事業者の講ずべき措置等)です。
(3)損害賠償請求できる項目を確認
被災者の方が会社に対して請求できる損害賠償項目を確認しておきましょう。<主な損害賠償項目>
- ・治療費
- ・通院交通費
- ・休業損害
- ・慰謝料
- ・逸失利益
- ・葬儀費用
- ・装具・器具購入費
- ・自宅・自動車改造費 など
会社側との示談交渉では争点になることが多いため、適正な相場金額を知っておくことが大切です。
(4)慰謝料と逸失利益の種類と相場金額を知っておく
労災で傷害(ケガ)を負った場合、被災者の方は次の2種類の慰謝料を請求することができます。①傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害(ケガ)の治療のために入通院した際の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。②後遺障害慰謝料
症状固定後に後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に支払われる慰謝料です。後遺障害が重度なほど金額は大きくなりますが、認定された等級(1級~14級)によってあらかじめ概ねの金額が決められています。
後遺障害慰謝料の一覧表 |
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後遺障害等級1級 | 2,800万円 |
後遺障害等級2級 | 2,370万円 |
後遺障害等級3級 | 1,990万円 |
後遺障害等級4級 | 1,670万円 |
後遺障害等級5級 | 1,400万円 |
後遺障害等級6級 | 1,180万円 |
後遺障害等級7級 | 1,000万円 |
後遺障害等級8級 | 830万円 |
後遺障害等級9級 | 690万円 |
後遺障害等級10級 | 550万円 |
後遺障害等級11級 | 420万円 |
後遺障害等級12級 | 290万円 |
後遺障害等級13級 | 180万円 |
後遺障害等級14級 | 110万円 |
脊椎圧迫骨折の場合、後遺障害6級の後遺障害慰謝料の相場金額は1,180万円、8級の場合は830万円、11級で420万円になります。
会社側の提示金額がこれらの金額より低い場合は、示談交渉に入る必要があります。
関連記事 労災事故の慰謝料の相場と慰謝料を増額する方法
【関連動画】
(5)後遺障害逸失利益は将来の収入への補償
後遺障害逸失利益というのは、後遺障害を負わなければ将来的に得られるはずだった利益(収入)のことです。なお、治療や入通院のために休業せざるを得ない場合の現在の収入に対する補償は休業損害になります。
後遺障害逸失利益は、被災者の方の年齢、性別、職業等によって金額が変わり、次の計算式で算定します。
基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
詳しい計算方法については、次のページをご覧ください。
労災の後遺障害と逸失利益│職業別の計算方法と早見表
(6)後遺障害逸失利益は将来の収入への補償
過失割合とは、労災事故が起こったことについての、使用者(会社)側と労働者(被災者)側の過失(責任)の割合のことです。
そして、過失割合に応じて慰謝料などを減額することを過失相殺といいます。
たとえば、慰謝料などの損害賠償金額が1,000万円で、過失割合が使用者側5対労働者側5と認められてしまった場合は500万円の減額となり、被災者の方は500万円しか受け取ることができなくなってしまうのです。
過失割合については、労災の知識と実務に精通した弁護士でないと正確に判定できないので、会社側の提示金額に納得がいかない場合は弁護士に相談されることをおすすめします。
納得!労災で弁護士に相談・依頼するメリット
労災の被災者の方が会社側に損害賠償請求した際、ほとんどの会社は過失相殺の主張をしてくると考えておいたほうがいいでしょう。そして、会社側の主張を受け入れてしまうと被災者の方は大きな損をしてしまうことを知っていただきたいと思います。
会社が営利法人の場合、何のために運営されているかといえば利益の追求ですから、支出となってしまう被災者の方への慰謝料などは、できるだけ低く抑えようとします。
そのため、被災者の方が主張した金額を会社は簡単には受け入れることはないでしょう。
そこで、会社(使用者)側との示談交渉に突入するわけですが、現実的には被災者の方が一人で交渉して、適正な金額を勝ち取るのは難しいと言わざるを得ません。
このような場合は、労災問題に強い弁護士への相談・依頼を検討してください。
- ☑労災給付金の請求などの相談ができる
- ☑後遺障害等級が正しいかどうかの確認ができる
- ☑会社に損害賠償請求できるか、するべきかどうかの判断をしてもらえる
- ☑慰謝料や逸失利益などの正確な金額算定ができる
- ☑正しい過失割合を判定してもらえる
- ☑相談者の代理人として示談交渉を行なってくれる
- ☑示談交渉が決裂した場合は裁判での解決を任せられる
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