鎖骨・胸骨・肋骨・肩胛骨・骨盤骨骨折による後遺障害
最終更新日 2024年 06月05日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
この記事を読むとわかること
本記事では、仕事中の労災事故で骨折した場合の後遺障害等級や慰謝料などの損害賠償について解説します。
●労災とは?
●骨折では後遺障害等級は何級が認定される?
●損害賠償について
- ☑業務中に傷害(ケガ)を負った場合は労働災害(労災)になります。
- ☑労災認定を受けた場合、被災者(労働者)の方は「療養補償給付」「休業補償給付」「傷病補償年金」「障害補償給付」「介護補償給付」などの補償を受け取ることができます。
●骨折では後遺障害等級は何級が認定される?
- ☑鎖骨・胸骨・肋骨・肩胛骨・骨盤骨骨折等で後遺症が残る場合、後遺症の程度や範囲によって、変形障害の場合は12級5号、神経症状の場合は12級12号か14級9号が認定される可能性があります。
●損害賠償について
- ☑骨折の労災では、労災保険からの給付金だけでは補償が不十分な場合が発生する可能性があり、会社に対して「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償請求をすることができます。
- ☑後遺障害慰謝料の適正な相場金額は、後遺障害12級で290万円、14級で110万円です。
- ☑慰謝料以外にも、会社に対しては逸失利益などの損害賠償も請求することができます。
目次
労働災害(労災)について知っておくべきポイント
知っておきたい「労災」の基礎知識
- ☑労働(仕事)中の業務が原因で、労働者の方がケガや病気、障害、死亡に至った場合を「労働災害(労災)」といいます。
- ☑労災は大きく、「業務災害」(業務中のケガなど)と、「通勤災害」(通勤中の交通事故等によるケガなど)の2種類に分けられます。
労災の認定基準について
☑業務災害の労災認定基準には次の2つがあります。- ①業務遂行性=労働者が使用者(会社)の支配下にある状態
- ②業務起因性=業務に内在する危険性が現実化し、業務と死傷病の間に一定の因果関係があること。
参考資料:「業務災害について」(厚生労働省)
☑通勤については、労働者災害補償保険法の第7条で法的には次のように規定されています。 「通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」
<移動の定義>
- ・住居と就業の場所との間の往復
- ・就業の場所から他の就業の場所への移動
- ・住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動
これらの「移動」を、「合理的な経路と方法」で行なっていれば、通勤災害と認められます。
参考資料:「通勤災害について」(東京労働局)
【関連動画】交通事故:通勤労災で労災保険と自賠責保険のどちらを使う?弁護士解説。
労災保険の特徴とは?
☑被災者の方が労災認定を受けた場合、労災保険を使うことができます。<労災保険の特徴>
●「労働基準法」や「労働者災害補償保険法(労災保険法)」により災害補償制度が定められているため、労災保険では国からさまざまな補償(給付)を受けることができます。
●労災保険は労働者やその家族を守るための保険制度であることから、従業員を1人でも雇用している事業主には加入が義務付けられています。
●雇用形態(アルバイトやパートタイマーなど)に関係なく労災保険の加入対象となるので、一定の要件を満たしていれば労災保険の給付を受けることができます。
●健康保険とは違い、労働者の自己負担額がないことも労災保険のメリットです。
●ただし、労働保険指定医療機関ではない病院などで治療を受けた場合は、まず被災者の方が治療費を立て替えて支払う必要があることに注意してください。
労災保険からの給付内容を確認
☑労災保険から受けられる補償には次のものがあります。①療養補償給付
診察、治療などに対する補償。②休業補償給付(休業給付)
ケガの治療ために労働できない場合、休業の4日目から休業が続く間の補償が支給される。③傷病補償年金(傷病年金)
治療開始後1年6か月を経過しても治らない場合、傷病等級に応じて支給される。④障害補償給付(障害給付)
ケガが治った、もしくは症状固定(それ以上の回復が見込めない状態)後に後遺障害等級(1~14級)に基づいて支給される。⑤介護補償給付(介護給付)
後遺障害等級が1級と2級で常時介護が必要になった場合の補償。⑥遺族補償年金(遺族年金)
労働者が死亡した場合、遺族に支給される。⑦葬祭料(総裁給付)
労働者が死亡した場合、支給される葬祭費。※⑥⑦は死亡の場合
参考資料:「労災保険給付の概要」(厚生労働省)
労災認定・給付請求の手続きについて
労災が起きてから認定されるまでの手続きと、おおまかな流れは次のようになります。STEP1:病院で治療を受ける
- ・業務中にケガを負った場合は必ず病院に行き、治療を受けます。
- ・労災の場合、病院では健康保険証が使えないことに注意が必要です。
STEP2:会社に報告する
労災が発生したら、まずは労働者(被災者)から会社に報告します。STEP3:労災保険の請求手続き(請求書類の作成・準備・提出など)
- ・原則、労災にあった本人または家族が手続きを行ないます。
- ・ただし、会社には労災申請時の助力義務があるため、できれば会社に書類の作成は依頼したほうがいいでしょう。
- ・請求書は、会社の所在地を管理している労働基準監督署や厚生労働省のWebサイトからダウンロードできます。
- ・各請求書には事業主証明欄があるので、会社に記入してもらう必要があります。
STEP4:労働基準監督署長に請求書などを提出
労災保険の請求書や各種必要書類の用意ができたら、労働基準監督署長に提出します。STEP5:労働基準監督署長による調査と認定
労働基準監督署長が調査を開始し、労働災害と認められれば労災保険給付が行なわれます。STEP6:労災認定がされなかった場合は審査請求
- ・労災と認定されなかった場合は、審査請求をすることができます。
- ・審査請求の期限は、労災保険給付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月です。
- ・この期限が過ぎると請求することができなくなるので注意してください。
参考資料:「労災保険給付に関する決定(不支給決定や障害等級の決定など)に不服がある場合、どうしたらよいでしょうか。」(厚生労働省 )
「労働災害が発生したとき」(厚生労働省)
鎖骨・胸骨・肋骨・肩胛骨・骨盤骨骨折による後遺障害
人体の骨の種類
人体には約200個の骨があり、それらの組み合わせで人間の体は支えられています。その中から、本記事では次の5種類について見ていきます。
鎖骨
鎖骨は、胸骨と肩胛骨を連結している骨で、肩への衝撃を吸収する働きもしています。人体の中で、もっとも折れやすい骨のひとつとされ、折れた箇所によって次の3つに分けられます。
- ・鎖骨骨幹部骨折
- ・鎖骨遠位端骨折
- ・鎖骨近位端骨折
胸骨
胸の中央の前面にある骨で、扁平な形をしています。上から、胸骨柄・胸骨体・剣状突起の3つの部分からなっています。
胸骨には大量の骨髄が存在しており、血液の20~30%が作られるとされます。
肋骨
胸部内の内臓を覆っている骨で、脊椎と胸骨とともに胸郭を形成しています。いわゆる「あばら骨」で、外部の衝撃から内臓を守る働きがあります。
肩胛骨(肩甲骨)
両肩にある大型の骨で、三角形状をしています。鎖骨と上腕骨とつながり、肩関節を形成しています。
骨盤骨
大腿骨と脊柱の間で体を支えている骨で、すり鉢状の形をしています。左右1対の寛骨、仙骨、尾骨で構成されています。
骨折の種類について
骨折については、状態や部位によって次のような種類があります。
<骨折の種類>
- ・単純骨折(閉鎖骨折)
- ・複雑骨折(開放骨折)
- ・複合骨折(重複骨折)
- ・圧迫骨折
- ・亀裂骨折
- ・剥離骨折
- ・粉砕骨折
- ・破裂骨折 など
※複雑骨折(開放骨折):折れた骨が皮膚から飛び出た状態。
※剥離骨折:骨に亀裂が入り、骨についている腱や靭帯が引っ張られることで骨ごとはがれてしまう状態。
鎖骨・胸骨・肋骨・肩胛骨・骨盤骨骨折による後遺障害のポイント
これらの骨の骨折では、次の後遺障害等級が認定される可能性があります。その他体幹骨の変形障害 | |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
著しい変形を残すものとは、裸体になったとき変形(欠損を含む)が明らかにわかる程度のものをいいます。
したがって、骨の変形がX線写真によって、はじめて確認できる程度のものは該当しません。
神経症状障害 | |
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12級12号 | 局部にがん固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級と14級の症状の違いは「がん固」なものかどうかです。
12級が認定されるのは、障害の存在が「他覚的に証明」できているケースです。
具体的には、CTやMRIなどの画像所見や神経学的所見といった検査資料がそろっていて、「なぜそのような症状が起きているのか」の仕組みや原因を明確に説明できる場合、ということになります。
14級が認定されるのは、障害の存在が「医学的に説明」できているケースです。
12級の認定に必要な検査資料はそろっていないが、神経症状が労災事故によって生じたものと説明できる場合、ということになります。
参考資料:「労災の障害等級表」(厚生労働省)
【関連動画】【労災】で後遺障害等級を得られる人、得られない人の違い
労災では会社側に損害賠償請求できる
会社に対する損害賠償請求の法的根拠
労働者が労災によりに骨折の傷害(ケガ)を負い、後遺障害が残ってしまった場合、労災保険から前述したような給付金を受け取ることができます。しかし労災保険金だけでは、被災者の方が受け取るべき損害賠償が不足するというケースがあります。 このような場合では、被災者の方は会社に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることができます。
法的根拠となる条文は次のものです。
「労働契約法」
第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
「労働安全衛生法」
第24条(事業者の講ずべき措置等)
事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
「労働安全衛生法」
第24条(事業者の講ずべき措置等)
事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
損害賠償請求できる項目は?
被災者の方が会社に対して請求できる損害賠償項目には次のものがあります。
<主な損害賠償項目>
- ・治療費
- ・通院交通費
- ・休業損害
- ・慰謝料
- ・逸失利益
- ・葬儀費用
- ・装具・器具購入費
- ・自宅・自動車改造費 など
このうち、「慰謝料」と「逸失利益」は金額が大きくなる項目です。
そこで、会社側との示談交渉での争点になることがあるため、適正な相場金額を知っておくことが大切です。
慰謝料の種類と相場金額
労災による傷害の場合の慰謝料には次の2種類があります。「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」
傷害(ケガ)の治療のために入通院した際の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料。
「後遺障害慰謝料」
症状固定後、後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に支払われる慰謝料。
1級から14級の等級によってあらかじめ概ねの金額が決められており、後遺障害が重度なほど金額は大きくなる。
<後遺障害慰謝料の一覧表>
後遺障害等級1級 | 2800万円 |
後遺障害等級2級 | 2370万円 |
後遺障害等級3級 | 1990万円 |
後遺障害等級4級 | 1670万円 |
後遺障害等級5級 | 1400万円 |
後遺障害等級6級 | 1180万円 |
後遺障害等級7級 | 1000万円 |
後遺障害等級8級 | 830万円 |
後遺障害等級9級 | 690万円 |
後遺障害等級10級 | 550万円 |
後遺障害等級11級 | 420万円 |
後遺障害等級12級 | 290万円 |
後遺障害等級13級 | 180万円 |
後遺障害等級14級 | 110万円 |
後遺障害12級の後遺障害慰謝料の相場金額は290万円、14級の場合は110万円になります。
会社側の提示金額がこれより低い場合は、示談交渉をしていく必要があります。
【関連動画】労災の慰謝料請求を弁護士が解説
【関連記事】
・通労災事故の慰謝料の相場と慰謝料を増額する方法
・通労災事故の慰謝料の相場と慰謝料を増額する方法
後遺障害逸失利益は将来の収入への補償
後遺障害がなければ、将来的に得られるはずだった利益(収入)を後遺障害逸失利益といいます。一方、休業損害というのは治療や入通院のために休業せざるを得ない場合の現在の収入に対する補償になります。
後遺障害逸失利益は、被災者の方の年齢、性別、職業等によって金額が変わってきます。
<後遺障害逸失利益の計算式>
基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
詳しい計算方法については、次のページを参考にしてください。
【関連記事】
・労災の後遺障害と逸失利益│職業別の計算方法と早見表
・労災の後遺障害と逸失利益│職業別の計算方法と早見表
過失割合による過失相殺には注意が必要
過失割合とは、その労災事故が起こったことについての、使用者(会社)側と労働者(被災者)側の過失(責任)の割合のことです。過失割合に応じて慰謝料などを減額することを過失相殺といいます。
たとえば、慰謝料などの損害賠償金額が1,000万円の場合、過失割合が使用者側8対労働者側2の場合では、200万円が減額されてしまいます。
過失割合が使用者側5対労働者側5と認められてしまった場合は500万円の減額となり、被災者の方は500万円しか受け取ることができなくなってしまうのです。
労災の損害賠償問題を弁護士に相談・依頼するメリット
労災の損害賠償問題では、使用者側から過失相殺の主張が出てくることがほとんどです。そして、その争いの結果によって受け取ることができる損害賠償額が大きく変わってしまいます。
会社が営利法人であれば、その運営目的は利益の追求になるので、支出となってしまう被災者の方への慰謝料などは、できるだけ低くしようとします。
そのため、被災者の方が主張した金額を会社は簡単には受け入れません。
そこで、会社(使用者)側と示談交渉を行なっていく必要があるのですが、被災者の方が一人で交渉して適正な金額を勝ち取るのは、なかなか難しいという現実があります。
そうした場合は、労災問題に精通した弁護士への相談・依頼を検討してください。
労災問題に詳しい弁護士に相談・依頼をすると、次のようなメリットがあります。
☑労災給付金の請求などの相談ができる
☑後遺障害等級が正しいかどうかの確認ができる
☑会社に損害賠償請求できるか、するべきかどうかの判断をしてもらえる
☑慰謝料や逸失利益などの正確な金額算定ができる
☑相談者の代理人として示談交渉を行なってくれる
☑示談交渉が決裂した場合は裁判での解決を任せられる
☑後遺障害等級が正しいかどうかの確認ができる
☑会社に損害賠償請求できるか、するべきかどうかの判断をしてもらえる
☑慰謝料や逸失利益などの正確な金額算定ができる
☑相談者の代理人として示談交渉を行なってくれる
☑示談交渉が決裂した場合は裁判での解決を任せられる
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・労働災害(労災)を弁護士に相談依頼するメリット・デメリット
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