労災死亡事故の給付金の手続と慰謝料・賠償金の請求
最終更新日 2024年 04月18日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
業務や通勤を起因とする病気やケガなどの労働災害で家族が亡くなってしまった場合、遺族は労災保険から一定の給付を受けることができます。
この労災保険給付は、残された遺族の生活を保障するための大切な補償といえます。
また、労災死亡事故の場合、労災保険だけではなく死亡事故という事態を引き起こした会社に対して損害賠償を請求できる場合があります。
ここでは、労災死亡事故の労災保険給付と会社に対する損害賠償請求について解説します。
目次
労働災害と労災保険について
労働災害が起こった場合、従業員やその家族は労災保険による給付を受けることができます。ただし、労災保険給付を受けるには、労働災害であることが認定されなければなりません。
まずは、労働災害と労災保険について解説します。
労働災害とは
労働災害とは、業務が原因で生じる従業員の病気やケガ、障害、死亡などを指します。労働災害には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
業務災害
業務災害とは、業務中や業務に起因することで生じたケガや病気、障害、死亡などを指します。勤務先で発生した業務上の災害や、取引先での事故などが業務災害に該当します。
業務災害の認定では、「業務遂行性」と「業務起因性」が基準になります。
業務遂行性とは、事業主の指示の下で業務を遂行している状態か否かということを指し、業務遂行性のある状態で起こった災害が業務災害として認められます。
また、業務起因性とは事業主の指示で従業員が業務を行っており、その業務が原因で災害が起こったか否かということを指します。
業務遂行性や業務起因性がない場合は業務災害とは認められません。
業務遂行性と業務起因性の2つの側面から判断し、業務災害と認められる例と認められない具体例は、以下の通りです。
【業務災害が認められる例】
・機械を使った作業をしていたら、機械が誤作動して負傷した ・会社から法外な労働時間を強いられ、過労死した
・機械を使った作業をしていたら、機械が誤作動して負傷した ・会社から法外な労働時間を強いられ、過労死した
【労働災害が認められない例】
・昼休み休憩中に気分転換に運動をしていてケガをした ・業務時間中に業務とは関係のないことで同僚とケンカになり、障害の残るケガを負った
・昼休み休憩中に気分転換に運動をしていてケガをした ・業務時間中に業務とは関係のないことで同僚とケンカになり、障害の残るケガを負った
通勤災害
通勤災害とは、自宅から会社までの通勤ルート上で生じた病気やケガ、障害、事故などを指します。 通勤ルートだけではなく、業務で外出した場所からの移動ルートも含まれます。 一方で、通勤ルートから外れて寄り道などをしていた場合、通勤災害と認められない可能性があります。【通勤災害が認められる例】
・通勤中に最寄り駅で階段から落ちた ・取引先から自宅へ直帰する際のルート上で事故に遭った
・通勤中に最寄り駅で階段から落ちた ・取引先から自宅へ直帰する際のルート上で事故に遭った
【通勤災害が認められない例】
・退勤後に友人と食事するために移動した先でトラブルに巻き込まれて負傷した ・休日に業務とは関係ないことで会社の近くを通りがかり、事故に遭った
・退勤後に友人と食事するために移動した先でトラブルに巻き込まれて負傷した ・休日に業務とは関係ないことで会社の近くを通りがかり、事故に遭った
労災保険とは
労災保険とは、労働者やその家族を守るための保険制度です。国や自治体によって運営されている社会保険のひとつであり、労災が認められれば給付を受けることができます。
労災保険は、従業員を1人でも雇用している事業主には加入が義務付けられています。
そして、アルバイトやパートタイマーなど雇用形態に関係なく労災保険の加入対象となり、一定の要件を満たしていれば労災保険の給付を受けられます。
労災死亡事故で支払われる労災保険給付金
家族が労働災害で亡くなった場合、労災保険による補償を受けられます。労災保険より受けられる補償内容は、「遺族給付」と「葬祭料」です。
そして、遺族給付には、「遺族補償年金」と「遺族補償一時金」の2種類があります。
それぞれの給付内容や金額について紹介します。
遺族補償年金
遺族補償年金は、被災労働者が家族の生計を維持していた場合に家族などに対し、年金として毎年支給されます。遺族補償年金の給付対象になる方には、「遺族特別支給金」と「遺族特別年金」も給付されます。
遺族補償年金
労働基準法における平均賃金に相当する額である「給付基礎日額」を基準とし、遺族の人数に応じて金額が算出されます。
給付基礎日額
給付基礎日額は、労災事故の直前3カ月間に支払われていた賃金額を日割りした1日あたりの金額です。
遺族の人数により、以下の日数分が支給されます。
遺族の人数 | 日数 |
1人 | 153日分 |
2人 | 201日分 |
3人 | 223日分 |
4人以上 | 245日分 |
遺族特別支給金
一律300万円の一時金です。年金とは異なり、一時金なので支給は一度のみになります。
遺族特別年金
被災労働者の死亡前1年間に支払われていた特別給与(賞与やボーナスなど)を365日で割った「算定基礎日額」を基礎として算定する年金です。遺族補償年金と同年日数分で算定され、毎年支給されます。
遺族補償一時金
遺族補償一時金が給される対象になる方には、「遺族特別一時金」と「遺族特別支給金」も給付されます。遺族補償一時金の対象となる方と、それぞれの給付金内容は以下の通りです。
労災死亡者の死亡当時に遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合
遺族補償一時金 | 給付基礎日額1000日分 |
遺族特別一時金 | 算定基礎日額1000日分 |
遺族特別支給金 | 一律300万円 |
遺族補償年金および遺族補償年金前払一時金の給付額の合計額が、給付基礎日額の1000日分に満たない場合
遺族補償一時金 | 給付基礎日額1000日分から、すでに支給された遺族補償年金および遺族補償年金前払一時金などの合計額を差し引いた金額 |
遺族特別一時金 | 算定基礎日額1000日分から、すでに支給された遺族特別年金の合計額を差し引いた金額 |
遺族特別支給金 | すでに支給されているため、支給なし |
葬祭料
葬祭料とは、被災労働者の葬祭を執り行った遺族に対して支給される葬儀の費用です。葬祭を執り行う遺族がいないため友人知人が葬儀を行った場合には、葬儀を執り行った人に対して給付されます。
葬祭料の支給額は、葬儀にかかった費用全てが給付されるわけではありません。
以下の2つのうちの多い金額が採用されます。
・31万5000円+給付基礎日額の30日分
・給付基礎日額の60日分
・給付基礎日額の60日分
労災死亡事故の労災保険給付と葬祭料の請求手続き
労災死亡事故の労災保険給付や葬祭料は、それぞれ請求手続きを行わなければなりません。それぞれの請求先や請求時に必要な書類、請求方法についてご紹介します。
労災保険給付の請求手続き
労災保険の遺族補償年金や遺族補償一時金は、管轄の労働基準監督署へ請求を行います。提出書類となる「遺族補償年金請求書」や「遺族補償一時金請求書」は、労働基準監督署の窓口や、厚生労働省のホームページから入手可能です。
書類に必要事項を記入し、以下の書類を添付します。
・死亡を証明する書類(死亡診断書や死体検案書など)
・被災労働者と受給資格者の親族関係を証明できる書類(戸籍謄本など)
・被災労働者の収入で生計を維持していたことを証明する書類
・被災労働者と受給資格者の親族関係を証明できる書類(戸籍謄本など)
・被災労働者の収入で生計を維持していたことを証明する書類
遺族補償給給付請求の時効は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年です。
時効が成立すると請求権が消失するため、時効までに請求を行いましょう。
葬祭料の請求手続き
葬祭料の請求も遺族補償給付と同様に、所轄の労働基準監督署へ書類提出を行います。業務災害の場合は「葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書」を提出し、通勤災害の場合は「葬祭給付請求書」を提出します。
これらの書類も労働基準監督署の窓口や、厚生労働省のホームページから入手可能です。
葬祭料の請求手続きでは、遺族補償給付と同様に戸籍謄本や死亡診断書などの添付書類が必要です。
ただし、遺族補償給付で書類を提出している場合には、添付書類の再提出は必要ありません。
葬祭料請求の時効は、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年です。
遺族補償給付よりも時効が短いため、注意しましょう。
労災死亡事故の損害賠償請求について
労災保険の給付は手厚いものとなりますが、労災保険の給付金額は法令で定められた通りの支払いになります。そのため、被災労働者の遺族に対する慰謝料などは支払われません。
こうした慰謝料などの損害賠償は、会社に対して請求できる場合があります。
労災死亡事故で損害賠償を請求できるケースは、以下の通りです。
安全配慮義務違反がある場合
会社には、労働者が安全に働けるように必要な配慮をするという「安全配慮義務」があります。(労働契約法5条)
会社が安全配慮義務を怠ったことで労災が発生した場合、労働者は会社に対して損害賠償を請求することができます。
【安全配慮義務違反の一例】
・マニュアルがあったにも関わらず、会社から簡素化した手順で作業するように命じられ、労働災害が発生した。
・長時間労働や厳しいノルマを課せられ、心労から自死してしまった
・マニュアルがあったにも関わらず、会社から簡素化した手順で作業するように命じられ、労働災害が発生した。
・長時間労働や厳しいノルマを課せられ、心労から自死してしまった
使用者責任が認められる場合
従業員を雇用している使用者は、従業員が業務を行うにあたって第三者に損害を与えた場合、使用者も損害を与えた従業員と連帯して被害者に賠償する責任を負います。この責任を「使用者責任」と呼び、使用者の不法行為責任の一種になります。
【使用者責任が認められる一例】
・業務中に従業員が機会を誤作動させ、他の従業員を死亡させた
・上司によるパワーハラスメントでうつ病を発症し、自死してしまった
・業務中に従業員が機会を誤作動させ、他の従業員を死亡させた
・上司によるパワーハラスメントでうつ病を発症し、自死してしまった
労災死亡事故の損害賠償請金の内訳と相場
労災死亡事故で会社に損害賠償を請求できる場合、死亡慰謝料やそれ以外の費目も合算した金額を損害賠償金として受け取ることができます。労災死亡事故の損害賠償金の内訳と相場は以下の通りです。
死亡慰謝料
慰謝料とは、精神的な苦痛に対する損害賠償です。死亡慰謝料は、被災労働者の家庭での立場によって金額が異なります。
死亡慰謝料の相場金額は、以下の通りになります。
被災労働者の立場 | 相場金額 |
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000~2500万円 |
そのため、両親や配偶者、子供などと実質的に同じ関係にある遺族も近親固有者として慰謝料請求できる可能性があります。
(民法第711条)
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死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、労災事故がなければ得られたと考えられる被災労働者の将来の収入です。つまり、被災労働者が一家の支柱だった場合や、若くして死亡した場合などは、死亡逸失利益が高額になり得ると考えられます。
死亡逸失利益の算定式は、以下の通りです。
<基礎収入額×(1―生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数>
基礎収入額
労災事故前の年収額生活費控除率
生きていれば消費したはずの生活費等の経費を控除する割合一家の支柱、被扶養者1人 | 40% |
一家の支柱、被扶養者2人以上 | 30% |
女性(主婦、独身など) | 30% |
男性(独身など) | 50% |
就労可能年数に対応するライプニッツ係数
就労可能年齢の上限を67歳として計算することが一般的です。ライプニッツ係数とは中間利息控除の計算に用いる係数の一種で、ライプニッツ係数は以下の国土交通省のホームページより確認できます。
国土交通省:「就労可能年数とライプニッツ係数」
会社に損害賠償を請求する方法
労災死亡事故の損害賠償を会社に請求する方法は、大きく分けると「示談」と「裁判」の2種類があります。会社に損害倍書を請求する場合の流れについて解説します。
損害賠償責任を立証する証拠集め
会社に損害賠償を請求するために、まずは損害賠償責任を立証するための証拠を集めます。証拠は客観的な資料である必要があり、できるだけ多く集めましょう。
労災事故の状況などによって証拠内容は異なりますが、例として以下のようなものが証拠になり得ます。
・労働基準監督署が作成した調査復命書
・実況見分調書
・タイムカードなど労働時間がわかるもの
・上司や同僚とのメッセージのやり取り
・本人の残した日記など
・実況見分調書
・タイムカードなど労働時間がわかるもの
・上司や同僚とのメッセージのやり取り
・本人の残した日記など
示談交渉
損害賠償を請求する場合、まずは会社と話し合いで示談を目指すことが多いです。示談交渉を進めるためには、損害賠償額を提示する必要があります。
会社側から提示された金額で納得できない場合は話し合い、双方が納得できる金額で話がまとまれば、示談書を作成します。
適切な損害賠償額が分からないという場合には、弁護士へ相談することをおすすめします。
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労働審判・損害賠償訴訟
会社との示談交渉で合意に至らない場合には、裁判で解決を目指します。裁判をする場合、申立書の作成や証拠の提出が必要です。
書類作成の手間や知識が必要になるため、裁判は専門家である弁護士のサポートを受ける方が良いでしょう。
裁判で主張が認められれば損害賠償を受け取ることができますが、会社側に責任がないと判断されれば損害賠償を受け取れません。
また、裁判で有利な判決を得られたとしても会社側が上訴すれば、再度審理が行われます。
損害賠償請求を長引かせたくないという場合には、適切な金額で会社に示談交渉をすることが重要なポイントになってきます。
まとめ
労災死亡事故が起こった場合、労働基準監督署へ労災保険を請求することができ、会社には損害賠償を請求することができます。被災労働者を失った悲しみは補償や損害賠償で埋められるものではありませんが、遺族には請求する権利があります。
適切な手続きで十分な補償や損害賠償額を受けられるように弁護士へご相談ください。
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